みんなで選ぶ日本五大蔑称として、チビ・デブ・ブス・バカ・ハゲが挙げられます。
このうち、ブスは本人にほとんど自覚がなく、ハゲについては、自分より他人が先に気付いてしまい、それだけにショックも大きいというのが、体験者に共通した所感です。
それはさておき、これらはどれもが、カナ2文字濁音付きという特性を持っており、若年層においては、それぞれの語間を延ばすことによって(例・バーカ)、相手に致命的ダメージを与えかねないことばなのであります。
しかも、こんなことばを恒常的に使うなんて…大人にはできません。
と、思っていました。
「今まで読んだ本の中で、一番面白かったのは?」と聞かれた場合、私はためらうことなく、つかこうへい氏の『ハゲデブ殺人事件』を挙げます。
「いい若いもんが、そんなにハゲてて困るだろう」
「フン、人間がだらしないからハゲるんだ」
「一生懸命生きていたら人間、ハゲたり太ったりしないもんだ」
「頭つかわずハゲたやつは、もの考えると本格的にハゲるぞ」
セリフがギザギザしており、これ以上は書けませんが、すべてがこの調子。
歯にパンツも穿かせない劇作家の物言いに対し、気の弱い若ハゲの刑事が、むしろ愛情を感じて心酔していくというレトリックに、読者は魅了されていくのです。
こんなの読んだら、怒っちゃう人もいるでしょうね。
だけど、そんな人は、タイトル段階で読まない。
だから、いいんです。
逆に、気を遣ってそのことに触れないほうが、傷つけるって感じ方もあることに気づかされる場合も。
そういう意味で、深い。
実に不快なストーリーが、つか作品の真骨頂と言えるのであります。
子供の感性を持ち続けているのが芸術家。
自信があるから、タブーはありません。
何がいけないかじゃなくて、何がいいかを見つけるチカラが大事だということを教わった気がします。
7月10日、天才戯曲家つかこうへい氏が肺がんで亡くなられました。享年62歳。合掌。