以前、高層マンションに住んでいたときの話です。
街の中心部に位置する絶好のロケーションであるため、水商売関連の人も多く、いわゆる綺麗なオネエサンがたくさん住んでおりました。
私の部屋は12階。二基のエレベーターはコンピューターで制御されているんでしょうね、実にコンビネーションよく動いており、長く待たされることはありませんでした。
住民は総じてお行儀がよく、個室内ではお互いに軽く挨拶を交わす。だからと言って、それ以上は踏み込まない。
この辺り、独特の距離感で生きているのが、現代の生活者たちであります。
ある日のこと、会社へ急ぐ私に悪夢が襲ってきました。忘れもしない右側のエレベーター。扉が開くなり、異臭が。そこには、誰も乗っていません。つまり、置き土産ですね。全然、いらないんだけど。
そういうときに限って、10階で停まります。しかも、オネエサンが。
パニックに陥っている私は、言葉を失っており、会釈すらできません。
お姉さんは乗り込むや否や、ハンカチを取り出して、避難訓練みたいになります。私には目を合わせようとしません。
そこへかぶせるように、7階から親子連れ。
いやぁ、子供は正直というか、KYというか、自由というか。
「パパ、臭いよ!なんでー?」
ピョンピョン跳ねます。
ミステリー好きでなくとも、犯人推理は当然のことでして、容疑者は二人。だけど、一人はハンカチですからね。自分でやっておいて、臭がるという演技指導はありません。
それに、若くて綺麗な女性にこの匂いはあり得ないという固定概念。
隠して、犯人は私ってことになる訳です。
家、親子はともかくも、オネエサンは圧倒的にそう思っている。怒りを込めて。
だからねぇ、高層マンションなんて、住むもんじゃありません。
転勤で去っていった前任者の後で、そんな風に思っている人って、結構いるんじゃないかなぁ。