読書の初心者だったころ、『仁義なき戦い』のアンチテーゼとして登場した小林信彦氏の『唐獅子株式会社』(新潮文庫)に出会いました。
ヤクザの親分が、思いつきで社内報を発行することから始まるんだけど、これが面白い。
この業界は、絶対的なトップダウンなので、決定プロセスのスピード感に胸が空きます。スーッとする。それに、ブレませんからね、ヤクザ。
無茶苦茶な命令に対し、右往左往しながらも何とかしようとする組員ってのも、サラリーマン世界に通じるものがあります。
安倍さんはともかくも、麻生さんは読んでそうなストーリーではありました。ヤクザが堂々と闊歩していた時代のパロディ小説です。
で、時は流れて、暴対法が出来上がると、世の中はグッと息苦しくなります。
善良な市民を装った個人主義者はタチが悪い。ルールでカバーしきれないスキを突いて、多数の力で弱者をいたぶろうとします。
そこへ立ち上がるのが、阿岐本雄蔵親分の『任侠学園』(今野敏著・中公文庫)です。
潰れかかった学園の再建に向けて、理事長として乗り込んだ阿岐本組が、素人さんに手を上げることなく、改革に着手する展開。これは、大人向けの童話です。暴走族出身の『サラリーマン金太郎』より、はるかに共感できました。
それにしても、一昨日の『ラブライブ』といい、少子化の影響による学校経営の深刻さをひしひしと感じます。
そういう問題意識もまた、魅力なのでありました。『隠蔽捜査』シリーズの今野敏氏とは思えない、平易な文体も爽快です。文句なしの一気読み。95点。