都会のネズミと田舎のネズミ

時事ネタを拾いながら、笑いの方向へと導きます。3打数1安打を目指しています。

検事の本懐

「I love you」という文章を「惚れちょるけんね」と訳しているうちは、英語教師止まりでありまして、これを「月が綺麗ですね」と膨らませることができれば、それはもう夏目漱石なのであります。作家の表現力とは、そういうこと。これは、行間を読むという能力でありまして、優秀な刑事や検察官に求められる才能でもあります。だからこそ、警察小説は馴染みやすいと思っています。

 

『検事の本懐』(柚月裕子著・角川文庫)は、犯罪を事実と法の照らし合わせだけで処分するのではなく、なぜこの罪が生まれたのかという深い部分にまで目を凝らし、事件と向き合える者こそが優れた検事であると考える作者が、理想とする人物を主役に据えた名作です。

司法に関係する人たちは、競争社会で勝ち抜いたエリート揃いなので、思っている以上に上昇志向が強く、時として本質を見誤まう。確かに、人を評価する場合、量は絶対的だけど、質については判断が難しいため、好き嫌いの領域に入り込んでしまいます。M1の審査が難しいのと同じ。

だから、普通だったら評価されにくいキャラクターが輝いたりして、胸がすくってこと。なるほど、少数派に光を与えるというのが、作文のコツなのかもしれません。当たり前じゃないことをどれだけ思いつけるかが、勝負です。

そういう意味で、柚月裕子氏はヘンな人です。そして、とても魅力的な作家です。

本編は、第二話『罪を押す』と第五話『本懐を知る』が秀逸。90点でいいでしょう。