戦後の未解決事件の一つとして、「草加次郎事件」があります。
1962年から63年にかけて起きた爆弾テロで、死者こそ出ていないものの、十数回にわたって爆破・銃撃を繰り返し、吉永小百合や島倉千代子ら有名人に脅迫状を送りつけるなど、センセーショナルな犯罪でありました。
指紋がたくさん残されていたにも関わらず、犯人検挙には至らずに公訴時効が成立してしまった犯罪史に名を残すミステリーです。
犯人が身代金を受け取る場に現れないと、逮捕できないもんだと学習したように思います。じゃあ何のためにやるの? 愉快犯は手強い。
桐野夏生の『水の眠り灰の夢』(文春文庫)は、高度成長の時代を背景に、東京五輪開催の高揚感をシンクロさせながら、草加次郎事件を取り込んだ佳作です。上手いんだよな、男目線の桐野先生。知らないと書けないことが、たくさん出てきます。どうやって取材しているかを思うと、ちょっと怖いんだよなぁ。
携帯電話がない大昔の話なんだけど、オリンピック前のシチュエーションが、現在に重なって刺激的でもありました。残念なのは、読後感の悪さ。なーんか、モヤモヤします。やはり、イヤミスの第一人者なんでしょうね。趣味が合わないところで80点。