これは、朝日新聞の夕刊に一年間にわたって連載された新聞掲載の続きもので、高層マンションで起きた殺人事件を大勢の関係者の証言で構成したドキュメンタリータッチの仕上がりとなっています。一日当たり2ページ弱のゆったりした進行。細切れの発言を次に繋げていく手法は斬新で、新聞小説の特徴を最大限に活かしていました。
一冊の単行本として読んだ場合、無駄が多く、冗長な感じがするものの、事件にまつわる多くの家族を描いていくと、そんなもんです。
バブル崩壊後の不動産価格低落に伴う占有屋の存在や多重債務者が陥る買取屋の罠みたいなものも勉強になりました。
そして2004年、その小説が大林宣彦監督によって、映画化されました。
この物語は、めちゃくちゃ登場人物が多いため、ストーリーが複雑であり、二時間ちょっとの映画にまとめるのは難しいと思われていたのですが、天才監督は原作を忠実に守りながら、ほとんど変えることなく描ききっています。何せ、エンドロールに役名のついた出演者の名前がざっと120人映し出されていますからね。
立川談志・永六輔・大山のぶ代・菅井きんなど今は亡き懐かしい顔がいるかと思えば、多部未華子・宮崎あおい・菊池凛子・寺島咲・花澤香菜のデビュー間もなくのころ、山本晋也・柳沢慎吾・島崎和歌子・久本雅美・片岡鶴太郎が出てくるし、主役級では古手川祐子・大和田伸也・小林稔侍・南田洋子・勝野洋・風吹ジュン・渡辺裕之、脇を固める岸部一徳・柄本明・村田雄浩・渡辺えり・小林聡美・石橋蓮司…ほかにも知ってる顔がズラリと続きました。
そうやって、視聴者に短時間でも役柄をイメージできるようにしたのだと思います。
スゴいことに、571ページにわたる長編小説が、細部にわたり145分で忠実に描かれていました。プロだわ。
うーん、書評では評価が分かれておりましたが、これは小説と映画、セットでおススメです。私的には両方とも90点。十分に満足できました。
エンディングに流れる曲の「殺人事件が結ぶ絆〜♬」というフレーズの繰り返しが、気味悪く耳に残りました。家族にはそれぞれが結びついている理由があるし、バラバラになって他人と繋がる理由もある。理由ねぇ。理由かぁ。