湊かなえという女流作家がいます。
デビュー作の『告白』が衝撃的だったので、その後も注目しておりました。
最近の『未来』(双葉文庫)でも、その分析能力の高さ、人物描写の確かさを発揮しています。
「言葉には人を慰める力がある。心を強くする力がある。勇気を与える力がある。癒し励まし愛を伝えることもできる。だけど口から出た言葉は目に見えない。だからこそ、人は昔から大切な事は書いて残す。言葉を形あるものにするために。それが文章だ」
「家の人に弁当を作ってもらった人は、それが当たり前だと思っちゃいけない。自分で弁当を作った人も、食べ物が簡単に手に入ることを当たり前だと思っちゃいけない。みんなの当たり前は、大勢の人に支えられた当たり前なんだ。だから、感謝して残さずに食べるんだぞ」
「世の中には世論が溢れているのに、いじめにしろ、貧困問題にしろ、何十年も前から続く問題が解決されないのは、本音を語らない人が多いからではないか。問題を解決しようと言う気はなく、自分のほうに流れてくる波をせき止めるために、都合の良い言葉で堤防を作る。もしくはその他大勢の方に流れようとする。金があるかと聞かれれば、生活に困るほどではないのに貧乏だと答えておく。幸せかと聞かれれば、さほど大きな悩みを抱えていないのに不幸だと答えておく。息苦しい世の中だと嘆いて見せる。生きづらいと不平を漏らす。そうすることにより、本当に問題を抱えている人たちが埋もれてしまうことなど気付こうともしない」
理路整然なのであります。
こういう先生がいたらなぁと思いますね。実際、昔、家庭科の教師をしていたんだそうです。なるほど。
ただ、問題は、登場人物の誰一人として共感できない点です。だからこそ、イヤミスの女王などと言われるのでしょうが、そこのところがねぇ。
ストーリー全体としては、今ひとつ、いやふたつでした。70点。