刑事は捜査のときに、相手の質問に答えてはいけないんだそうです。
最低限の情報を与え、最大限の情報を引き出すのが鉄則で、決して相手のペースには乗らない。
被疑者のもとを離れるときは、一度必ず振り返ること。その瞬間に相手がどういう動きをするか、どういう表情をするかを確かめるためなんだといいます。
表面上の言葉にはない、心理の読み合いみたいなところがあるので、表情を読み取られないようにする。
だから、ペラペラ喋るニコニコ愛想を振りまくような刑事は、捜査一課にはいません。
検事もそう。ジーンズにスニーカーなんて格好だと、ワクチンを射ってないよりも圧力がかかります。ふざけるなと。
法曹の世界こそ、前例踏襲の階級社会で、オリジナルの考えを持ちにくい。
それを踏まえて、描き込まれたのが『能面検事』(中山七里著・光文社)です。
どんな状況に置かれても無表情で通し、プライベートは謎に包まれている。雑談など、一切ナシ。だけど、仕事への没入ぶりは半端なく、切れ味が鋭い。そんな鉄面皮が、警察組織を敵に回しながら、正義を貫こうとする痛快小説です。
文体が硬いので、読みにくいところもあるけれど、ストーリー展開は一級品。注目の作家です。88点。