小3のとき、父親が会社の分譲地として案内された横浜の上大岡というところに家を買い、それまで母方の祖父母と暮らしていた三鷹から引っ越すことになりました。
今でこそ、上大岡はベッドタウンとして発展し、そこらじゅうが隈なく開けておりますが、当時は開発途上にあり、私の家の住所は南区笹下町字(あざ)権現堂谷という表示で、どれだけ田舎やねんという感じでした。近くには、養鶏場ありの肥溜めありの、街の匂いからして違う。最寄りの小学校へは、片道40分かけて通学していたのも嘘みたいな話です。横浜ですよ、これ。
当時は、開発から取り残された手付かずの森で昆虫採集もしたし、山の中の土地を勝手に掘って、秘密基地ごっこもしてました。
今から55年前。夢のような出来事です。
『再会』(横関大著・講談社)は、神奈川県北部の架空都市(三ツ葉市)を舞台に繰り広げられます。
横浜でも港北や戸塚のあたりは、最近でこそスマートな都市化が進んでおりますが、ちょっと前までは畑が目立っており、上大岡よりも20年以上遅れをとっていた、そんな感じです。
で、小学校の剣道教室で友情を深めた男女四人の幼馴染が、殺人事件に遭遇して現場から凶器を持ち去り、それをタイムカプセルとして埋めておくことから展開していきます。子供というのは、意外なほどに大人の事情を察知して、それに流されざるを得ない心理を汲み取ろうとする。純情すぎるような表現が、そこかしこにあって、甘酸っぱいものをたくさん感じました。仕事・お金・友情・恋人・家族の優先順位で迷わないのが、子供たる所以のような気がします。
この小説は、第56回江戸川乱歩賞受賞作ですが、ミステリーと言うよりも青春小説寄りのように思いました。
作者は文章表現が巧みで、メインの4人については、しっかり描かれていたものの、それ以外の人物描写が今ひとつで、その落差が惜しいように感じています。88点