普通の漫画に原作者なんか存在しません。フリーランスの漫画家は、指図されるのがイヤだってこともあるでしょう。それに、もともと筋立てを空想するのが好きだからこその漫画家なので、他人が考えたストーリーに沿って絵だけを描くのには抵抗がありました。
だけど、2本3本と連載が重なってくると、手が回らなくなります。
そこで、サンデーやマガジンの編集サイドでは、脚本家を用意するようになりました。
その世界に先鞭をつけたのが梶原一騎(または高森朝雄)です。スポーツにカネの匂いをいち早く感じ取りました。背景には、東京オリンピックも関係してたかもしれません。熱血根性はいけると。
彼が手がけた作品は、『柔道一直線』『巨人の星』『タイガーマスク』『空手バカ一代』『赤き血のイレブン』『侍ジャイアンツ』『キックの鬼』『夕焼け番長』『愛と誠』…そして『あしたのジョー』です。
格闘技というのは勝つか負けるかの二択ですから、そのシーンだけだとドラマ性に欠ける。だから、周辺部を固めていきます。
不幸な生い立ちから始まって、何故強くなったのか? 何を目指すのか? 誰が手を差し伸べるのか? 誰が邪魔するのか? 恋愛感情をどう描くか? ライバルの環境はどうなっているのか?
主人公である矢吹丈は、天涯孤独で親の愛を知らずに孤児院で育ちます。もちろん、お金は自由になりません。なので、人のモノを盗むのは当たり前。倫理観が破綻していました。そして、少年院へ。そこからより強い相手を求めた闘いのドラマが、原作者と漫画家の二人三脚で広がっていったのが『あしたのジョー』なのです。
当時の若者のほとんどがこの作品に魅了されたこともあって、ライバルである力石徹がリング上で命を落としたときには、お坊さんを呼んで葬儀まで行われるという社会現象まで引き起こしました。漫画なのにねぇ。
南海キャンディーズの静ちゃんがボクシングを始めたのは『あしたのジョー』の影響だと言ってましたが、そんな人は多かったんじゃないかな?
男女を問わず支持されていたのは、ちばてつやが丁寧に女性を描いていたのも関係していたと思います。
漫画史に残る名作でありました。
(つづく)