普通のミステリー小説は、大体400ページ前後に収まっています。
400字詰めの原稿用紙で400枚ぐらい。それは、出版社がその量を求めてくるからです。
だから、600ページを超えるような大作には、なかなかお目にかかれません。飽きますからねぇ、内容がないと。
しかしながら、それだけの場所を与えられると、大勢の登場人物が躍動して、時間の幅もたっぷり持たせることができます。
なので、いい作品も多い。アラカルトとフルコースの違いのようなものです。
ただし、読み手にもそれなりの体力と技量が求められます。
単行本のオーバー600ページは、重量を伴うので、読み始める前は潜水をするみたいに息を大きく吸い込みます。
奧田英朗の最新作『リバー』(集英社)は、648ページ。群馬県と栃木県にまたがる河川敷で起きた連続殺人事件に容疑者が3人現れます。それぞれに、暗い背景を持ちながら、なかなか決定だとなるような尻尾を出さない。こういうとき、警察の所管が分かれていると情報共有がされにくいってこともあるでしょう。被害者遺族にしても、犯人が逮捕されないことで悶々とするし、知られたくないことをマスコミに書かれて一方的に傷つくってのもあります。そういうのの描き方がウマいんだなぁ、奧田英朗。そりゃあ600ページ必要です。
容疑者それぞれの暗い部分も全く違うし、追う側の警察や新聞社、それに被害者家族にしても正義感が同じではありません。人はいろいろです。
ってことが、ギュッと詰め込まれています。最後がちょっと物足りなかったけど堂々の90点です。