都会のネズミと田舎のネズミ

読書ネタ、スポーツネタ、お笑いネタ、時事ネタを拾いながら、笑いの方向へと導きます。3打数1安打を目指しています。ハズレよりもアタリを読んでください。

罪の境界

2018年6月、神奈川県を走行中の新幹線の車両で22歳の男が乗客3人に鉈で斬りつけ、一人を殺害、二人に重傷を負わせました。動機については「子供のころから刑務所に入りたかった。無期懲役を狙った」という趣旨の供述をしており、また攻撃対象については「誰でもよかった」と語ったいわゆる無差別殺人です。

当時、車内に凶器を持ち込んだことを重く見て、飛行機と同じように乗車時に手荷物検査をするべきだとの声も上がりましたが、利便性を著しく損なうの理由で却下されています。

世の中の仕組みは、無茶なことをすれば厳罰に処されるのだから、犯罪行為に手を染めることを躊躇するのだけど、元から失うものがなければブレーキが効かなくなり、常識が通じなくなる。世間に絶望した人間は、従来は黙って自らの生命を絶っていたものの、ネット社会でいろんな情報を得ることで、ついには二人殺さなければ死刑にならないことや刑務所が今の生活と比べてそれほど悪い場所でないと判断し、デタラメな行動に出るという話です。論破王のひろゆきは、このやべえ奴を「無敵の人」と呼んでいます。

 

『罪の境界』(薬丸岳著・幻冬社)は、その新幹線の事件をヒントに描かれた作品です。

主人公の女性が、渋谷のスクランブル交差点で通り魔事件の被害者になったことから始まります。彼女を助けようとした男性は「約束は守った。伝えてほしい」との言葉を残して死んでしまう。女性は一命を取り留めたものの、顔面に大きな傷が残り、何より身代わりのようにして死んでしまった男性のことで周囲の想像以上に心へのダメージが残りました。

一方で、犯人の過去を洗うと、母親から虐待を受けて学校に通うこともなく、ほとんど他人との関わりがないままの人生であったことが分かります。だからと言って、無差別殺人が許されるわけもありません。そのへんのところの、周囲の人を通じての気持ちの揺れを見事に描いています。

 

うーん、義務教育は必要だし、特に道徳の授業に時間を割くべきだと思いました。

親身になって聴いてくれる人の存在は、とても重要なのであります。

 

【テーマ】タイトル・時代性・学習性 16点

【文章技巧】読みやすさ・バランス 18点

【人物描写】キャラクター・心理描写・思い入れ 19点

【構成】つかみ・意外性・スピード感 17点

【読後感】共感性・爽快感・リアリティ・オススメ度 18点

【合計】88点