芥川賞は、芸術性を踏まえた短編あるいは中編の作品に与えられる賞です。
エンターテイメント性に重きを置いた直木賞と違い、純文学が対象となっているので、私には敷居が高く、ほとんど読んできませんでした。
起きた事象よりも登場人物の内面を描くことに重きが置かれているため、理解するのが難しいんです。クラシックとポップスどころの差じゃありません。
両賞における受賞者の顔触れを見ても、硬派と軟派の違いとでも言いますか、偏差値が違うように思います。だから、その客層も違うような。
なので、そこそこ話題になって書店に並べられていたとしても、ページをめくるなんてことはなかったのです。別世界だと。
それが、BSテレ東の『あの本、読みました?』に触発されて、そんなに言うならと九段理江の『東京都同情塔』(新潮社)を購入しました。
テレビ局が番組を通じて、作家本人や芥川賞選考委員に魅力を語らせたら、それ以上の宣伝効果はありません。書店のPOP広告なんか、問題にならないのであります。
で、Amazonから送られて来た書籍は呆気に取られるほどの143ページ。しっかりした厚みのある紙質がよそ行きっぽいけど、ページ単価でいうと直木賞の倍です。やはり、偏差値が違うんでしょうか?あっさり片付けてしまおうと思いきや、流石の芥川賞、なかなか前に進めませんでした。
舞台は近未来(2026年)の東京。とは言っても、現実世界ではアンビルドになってしまったザハ・ハディド案の国立競技場が建設され、予定通り2020年にオリンピックが開催されたパラレルワールドの東京です。そこに建てられる予定なのが「シンパシータワートーキョー」。タワマン型の刑務所だというのです。なぜ、ヘンテコな名前がついたかと言うと、犯罪者は生まれた環境が不遇であり、罪を犯さざるを得なかった人が多く、同情(=シンパシー)すべき点が多いからだとの理屈です。
なるほど、人権派の弁護士が喜びそう。
これについて、犯罪者に対して寛容になれないタワーの建築家が、外来語に置き換えて意味をボヤけさすことの欺瞞性を訴えるために、東京都同情塔と言い換えさせるのが作者の真骨頂でありました。
それともう一つ。この作品の中に生成AIを登場させ、実際に文章を書かせているところが新しいんです。作者の発見は、生成AIの作る文章が現代に生きる人々の紡ぎ出す言葉の平均値をとったものであることに気がついたということ。一般には、生身の人間の言葉と生成AIの言葉は違うものだと思われていたが、そうではないと『あの本、読みました?』の中で明言していました。
う〜ん、やっぱり偏差値、違うわ。
めっちゃムズイんだけど、もう一度読み返してみたい、そう思わせる作品でした。
【テーマ】タイトル・時代性・学習性 20点
【文章技巧】読みやすさ・バランス 15点
【人物描写】キャラクター・心理描写・思い入れ 14点
【構成】つかみ・意外性・スピード感 16点
【読後感】爽快感・オススメ度 16点
【合計】81点