活字中毒の私は、ベースとなる純文学に全く触れずに大人になっていたので趣向に偏りがあり、その穴を埋めようと、書籍に関する情報を集めていたりします。雑誌の書評はもとより、ネットの口コミを読んでみたり、書店に行って店員さんによるPOP広告を眺めたり。テレビでは、『王様のブランチ』の文芸ランキング、そして鈴木保奈美の『あの本、読みました?』。そして、最近発見したのがNHKの『理想的本棚』です。
先月末に、これは再放送ですが「もう死にたいと思った時に読む本」というテーマでまとめていました。
別に死にたいだなんて思ったことはありませんが、そういう気持ちのある人に対して、番組としてどんな本を薦めるのかには興味があります。
その中で、『人間滅亡的人生案内』(河出文庫)の紹介が変わっていたので早速Amazonで取り寄せました。
作者である深沢七郎という人が、若い人たちから寄せられた悩みに対して答えるいわゆる人生相談なんだけど、宗教の教義のような優等生的な回答じゃなくて、そんなに思い詰めずに適当にやればいいというスタイルでゆる〜く答えていきます。
タイトルの「人間滅亡」というのは、『楢山節考』でデビューした放浪作家の深沢七郎が教祖となって布教につとめていた「人間滅亡教」から取ったもの。なにやら不穏なネーミングでイヤな感じですが、その目的は「これまでに人間たちが思い込んでいた他の動物よりすぐれているという考えを滅亡させること」であり、その主たる教義は「ボーっとして生きること」だと言います。それが、昭和40年代前半の話。当時の若者の悩みは、日常生活のつまらなさ、退屈さに訴える内容が多く、このままで良いのかという閉塞感や無常感を訴えているのが現代にも通じているように思いました。
何となく生まれてきたのだから、何となく生きていけばいいというアドバイスは、その通りだなぁと膝を打ったものです。
このほか、友人というものは花のような存在で、季節に応じて愛でるものだから、負担を感じたり、頼りにしようとするのは悪いことだと言い切ったり、恋愛は精神病の一種なので一度は罹って免疫をつけるべきだとか、刹那主義的な生き方こそが理想であって、分かりもしない将来のことを考える必要はないだとか、それはもう一刀両断です。批判なんて怖れない。とっくに死んじゃってますからね。