桂枝雀という人は、落語家の中でも珍しいほど芸に没頭し、上方の爆笑王と呼ばれました。
古典はもちろんのこと、新作落語にもチャレンジし、海外に出かけて英語落語を披露するなど、活動の幅を広げようと意欲満々でした。
そんな中でSRというショート落語を考案しているのが画期的です。普通の笑いは緊張から緩和状態がやってくるのですが、SRでは緊張状態が最後まで緊張を残したまま終わるという構造で、大きな笑いは取れないものの、落語理解が進んだ玄人向けのネタで注目を集めました。
たとえば、
「アッ、おかあちゃん、流れ星」
「あ、今のうちに願い事を言いなさい」
「一日も早くお父さんに会えますように」
「そんなことを言うもんじゃありません。お父さまには私たちの分も長生きしていただかなくっちゃ」
「定期券や、誰が落しよったんやろ……名前が書いてないな……
駅に届けたろ……駅の名前も書いてないな……
ああ、これ落したのやなくてほかしよったんや。期限切れで捨てよったんやな……
期限も書いてないな……
……わし、これが何で定期券と分かったのやろう……⁇」
落語のウケが難しい層は、長文の読解が苦手だという理由が多いので、小話とちょっと違う世界観を作りたかったのでしょう。逆に、笑いの難易度が上がっているようにも思いますが、奥行きが広がっているのは間違いありません。
先日、星新一の『ボッコちゃん』(新潮文庫)を読んだのですが、SRの長めバージョンであることに驚かされました。
シュールというのは、こういうことだという見本のようでもあり、ケムに巻かれたようなモヤモヤした結末の数々が何とも言えないところ。全部がわかってしまうよりも、読者に考えさせる含みを持たせるスゴ技に中毒性を感じます。
今さらではありますが、もう少し他の作品も読んでみようと思いました。
【テーマ】タイトル・時代性・学習性 16点
【文章技巧】読みやすさ・バランス 16点
【人物描写】キャラクター・心理描写・思い入れ 15点
【構成】つかみ・意外性・スピード感 19点
【読後感】共感性・爽快感・リアリティ・オススメ度 18点
【合計】84点