都会のネズミと田舎のネズミ

読書ネタ、スポーツネタ、お笑いネタ、時事ネタを拾いながら、笑いの方向へと導きます。3打数1安打を目指しています。ハズレよりもアタリを読んでください。

風に立つ

前科者や鑑別所帰りみたいな過去に傷を持った人間に対しては、背を向ける人がほとんどなので、立ち直ろうとしても勤め先がなく、再びダークサイトへ堕ちていくというのが常套化しております。再犯率が極めて高いというのが悪循環としてあるわけです。

そうならないためのセーフティネットがあるにはありますが、これにぴったりハマるケースはレアで、少しばかりの善意では通じないというのが実際のところでしょう。脛に傷がある人は、直接顧客に接するようなサービス業に不向きであり、人数の多い職場でも敬遠されてしまうのは仕方ないと思います。接客がなく、お金のやり取りをせず、少人数で真面目にコツコツやるような仕事だと、適応できる人間は限られている、そういうものです。

『風に立つ』(柚月裕子著・中央公論新社)は、問題を起こして家庭裁判所に送られてきた少年を一定期間預かる「補導委託」の制度を通じて、南部鉄器の職人である父と息子の気持ちの葛藤を描いた作品です。息子は納得いかぬまま迎え入れることになった少年と工房で働き、同じ屋根の下で暮らすうちに、少しずつ変化が訪れて親子関係を見つめ直すというハートウォーミングな物語。『虎狼の血』でヤクザ社会を取り上げたのと同じ人が書いたとは思えない新境地でした。

何がどうだってこともないんだけど、登場人物それぞれの優しさがじわじわと心を打ちます。

それにしても柚月裕子の文章は美しい。あっという間に読み終えました。

 

【テーマ】タイトル・時代性・学習性 16点

【文章技巧】読みやすさ・バランス 20点

【人物描写】キャラクター・心理描写・思い入れ 19点

【構成】つかみ・意外性・スピード感 16点

【読後感】爽快感・オススメ度 17点

【合計】88点