都会の人間が田舎暮らしに憧れて移住すると、思っていたことと違うことだらけで愕然とします。
空気が澄んでいるとか、星がキレいとかは、あっという間に感じなくなります。虫の多さで相殺されるんです。
そのうちに、登場人物の少なさが気になり始めます。どこへ行っても誰かに会うって感じ。それは、クルマに乗っていても同じです。あのクルマは◯◯だ、どこへ行くんだろう、なんて。消極的な監視社会であり、無責任な言動は自ずと控え気味になります。
やたらと横並びを意識します。目立つのは、利口な生き方とは言えない。だから、PTAの集まりにもジャージで出かけたりします。オシャレというのは、日常からの逸脱行為であり、許されるものではありません。
そもそも晴れの舞台が少ない。高級料理店とかブランドショップとかシンフォニーホールとか。
文化というものが欠落しているので、富裕層や知識人にはめちゃくちゃ居心地が悪いんです。そこらじゅうにコンプレックスを刺激する地雷が埋まっていて、会話にならないことが多い。それが田舎の正体です。
『無理』(奥田英朗著・文藝春秋)は、架空の地方都市「ゆめの」で暮らす5人の男女にスポットを当てて、それぞれが現代社会の歪みから抜け出せずに、止めどもなく暗転していく物語です。生活保護の不正受給、老人相手に詐欺まがいの悪徳商法、不幸に狙いを定めた新興宗教、古い利権がらみの地方政治など、格差社会の元で生まれたさまざまな事件がオムニバス調で描かれています。
収束へと持っていく展開に強引すぎる部分がありますが、いやはや登場人物を浮き立たせる心理描写が見事でありました。500ページ超えの大作ですが、一気読み間違いなしです。
【テーマ】タイトル・時代性・学習性 17点
【文章技巧】読みやすさ・バランス 18点
【人物描写】キャラクター・心理描写・思い入れ 20点
【構成】つかみ・意外性・スピード感 19点
【読後感】爽快感・オススメ度 19点
【合計】93点