読書のジャンルの中で、ミステリーと並んで好きなのがエッセイです。
いろんな作家の頭の中を覗いているようで、自分と違う考え方を知るのが愉しいんです。変わっていればいるほど面白い。
先日、BSテレ東の『あの本、読みました?』で紹介されていた一冊のタイトルが不思議だったので、早速Amazonで取り寄せました。
それが『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』(実業之日本社)です。
作者は全く無名の小原晩という女性で、元々は自費出版していたものが版元の目に留まり、ブレイクしたとのこと。
そんなことがあるんですね。と、夢を見てしまいます。
内容は、自伝的青春小説なんですけど、まず驚いたのはオリジナルのオノマトペの数々です。
・アニメのキャラクターのような騒がしいモーションでずんちゃかずんちゃとローソンに入っていく。
・梅や桜がふかふか咲いていた。
・ブランコは、ゴキーゴキーと唸ります。なんだかすごく楽しい。ペッタンクイクイゴキーゴキー。ペッタンクイクイゴキーゴキー。
・手持ち花火に火をつける。きらきら、しゃーしゃー、ぱちぱち喋る火花を見つめる。
・一晩中酒を飲んだ。友人は私の仕事は終わりましたという顔でふにゃふにゃと眠っている。
・道の真ん中を鳩がトトトトトトトトと歩いてきて…
・街いっぱいに春めいている。私が桜の木であれば、たったいま、ぱあぱあ、ひらいてしまいたい。
普通の人より音感が良いんでしょうね。独特でありながら、なるほどなぁと納得させられてしまいます。
いろんな事象に対する表現もユニークでハッとさせられます。
・生きているものが生きてゆくために、死んだものには徹底的に死んでもらうということ(火葬について)
・昼間に映画館に来ると「よし!観るぞ!」と意気込んでしまいがちですが、深夜の映画は「あー」とか「うー」とかで充分です。深夜とは余白です。
・プラスチックでできたビールジョッキをぐっとあおると孤独の味がする。
・いつだって自由は危険の上で成り立っているのです。
・何事も愛すべきは不完全である部分かもしれない。
・蝉時雨は命そのものを浴びているみたいで恐ろしい。
・いつもの街の、知らない道で、ふと見つけた店が、すばらしかったとき、私の浪漫はいともたやすく完成する。
・ジャングルジムの頂から見る夜空はすばらしい。スリルとロマンとバカバカしさのバランスが良い。今夜の月は黄色くて、半分で、眠そうだ。
・だれかのしあわせをねがうとき、私はしあわせなのだとおもう。
この作者は、漢字と平仮名を意図的に使い分けています。その方が、美しく見えるから。そういうところ、俳句っぽいと思いました。
本のコシマキに、ダウ90000の蓮見翔が推薦文を書いているけれど、創作者としての同じ匂いを感じたんでしょうね。心がほっこりしています。