大学の将棋部は、男だらけでした。てか、男しかいませんでした。今と違って女流棋士がほとんどいなかった時代ですから、将棋を指そうとする女性なんて、ほーんと珍しい。
ところが、ある日、入部希望で二人の女性が部室を訪ねて来たため、部内は騒然となります。駒の動かし方も覚束ない二人。
で、女性との付き合い歴ゼロのTが、嬉しそうに一生懸命に教え出しました。
駒の中で、ユニークな動きをするのが桂馬です。右と左とに飛び跳ねた感じ。Tはこれを指して、王将の横にいる二枚の金将に向けて、両取りができる場所へ桂馬を置いてヘラヘラしながら言います。
「こういうのを桂馬のふんどしって言うんだよ」
それって、Tのオリジナルではなく、桂馬の利きがふんどしのようであることを表現したものなんだけど、予備知識が全くない素人の女性に向けては通じません。セクハラというよりも、むしろ変態っぽい。二人が部室へ来ることは二度とありませんでした。
将棋の世界には、特有の言葉使いがたくさんあります。
動詞だと「切る」「切らす」「詰む」「謝る」「手を渡す」「面倒を見る」「投げる」「寄せる」「手抜く」「友達を失くす」
形容詞だと「痛い」「忙しい」「重い」「味が悪い」「筋がいい」「面白い」「甘い」「厚い」「うるさい」
名詞では「頭金」「一手違い」「駒落ち」「手合違い」「筋悪」「形づくり」「手順前後」「無理攻め」「味つけ」「質駒」
仲間内では、そんな言葉が横行しておりました。それが我々の若者言葉だったのであります。攻めの筋が悪いので、切れてばかりいました⁉︎