角川春樹という人ほど毀誉褒貶の激しい人は、あまりいないような気がします。結婚歴6回、離婚歴5回ってだけで、充分すぎるぐらいスゴいんだけど、名門角川書店の二代目として辣腕を振るいながら、麻薬取締法違反で収監されて表舞台から消えたりして、なんだかよく分かりません。
才能に溢れてはいるんでしょうね。地道な書店経営以外の角川映画だとか新刊の雑誌創刊だとか、新しいものに挑戦するたびに結果を出していく。それは普通のことじゃないでしょう。「読んでから観るか、観てから読むか」の『人間の証明』のキャッチコピーは今でも忘れられませんが、なんかこう才能の塊であるのは間違いないところだと思います。横溝正史のシリーズを掘り起こしたのも彼でした。ホラー小説こそビジュアル向きであり、そういうセンスなんでしょうね。見えないものが見える力。
現在は83歳ですか?まだまだ野心があるようです。
その角川春樹が、角川書店とは別にハルキ文庫というのを立ち上げました。
で、堂場瞬一にも目をつけて、自身の文庫から『沈黙の終わり』を発行しました。
コシマキに「堂場瞬一の最高傑作だ」(角川春樹)とあったので、これはもう引っかかります。そういうところ、抜け目ないですね。
物語は千葉県と茨城県の県境を巡って女児の行方不明及び死体遺棄事件が発生し、新聞記者たちが捜査に消極的な警察の裏側を暴こうとする展開で、よくあるパターンです。ただ、ちょっと変えているのは警察小説でのあるあるではなく、新聞社における社会部と政治部の視点の違いから切り込んでいるところ。文庫本では上下二巻にまたがっておりますが、一気読みでした。犯人側の心情にほとんど触れていないのが、物足りなく感じたものの、それはそれ。なるほど、傑作でありました。
【テーマ】タイトル・時代性・学習性 17点
【文章技巧】読みやすさ・バランス 19点
【人物描写】キャラクター・心理描写・思い入れ 20点
【構成】つかみ・意外性・スピード感 18点
【読後感】爽快感・オススメ度 18点
【合計】92点