例えば、そこそこ値段の張るお酒のお店で尿意をもよおしてトイレへ行くと、そこから出てくるのを狙い澄ましたように、おしぼりを持ったホステスさんが待ち構えています。
それには理由があって、用を足して手を洗いつつ鏡に映り込んだ自分を見ると、酔っ払った自分を冷静な目で感じるようになり、家に帰ろうという気分になるからだそうです。ホステスさんは、その気持ちを断つために待機しているわけで、一連の行動はマニュアルに基づいてのもの。
だから、甘く見てもらっちゃ困る。夜のお店は、非日常を演出するために、人間心理を深く学んでいるのです。
通販でお馴染みの『夢グループ』のCMには、CDのことを「シーデー」と発音する社長と一緒に、愛人めいた女性が登場します。
二人ができてるかどうか、どうだっていいんだけど、複雑なメッセージを投げかけて、ニヤッとさせる。有史以来、誰も使ったことがない企業戦略です。どこの訛りだか分からないものの、朴訥なセリフ廻しでことさらに誠意を演出。それを強調するための「やす〜い」という合いの手と寸止めするような色気。これが、ギリギリ下品じゃありません。買ってもらうのは、男性とは限らないので、女性に嫌われないよう、コント臭を塗りたくるわけです。
こういう手法は、アパホテルにも通じるところがあって、意識的にスキを作ることで財布の紐を緩めさせるやり方なんですね。苦労してきたんだろうなぁと思わせます。
とにもかくにも夢グループの社長が言いたいのは、ただ一点「安い」ということ。
そのために計算された綿密なシナリオには、ただただ驚かされるばかりなのであります。