昭和30年代の歌謡曲に『喜びも悲しみも幾年月』という悲しい曲調の歌がありました。
「おいらみーさきのーとうだいもーりーはー♬〜」
カラオケがなく、歌詞カードもなかったので、何を言ってるのかさっぱりだったけど、どうやら灯台が関係してるということは、子供でも薄々理解できてました。
言葉って、不思議ですよね。少ないボキャブラリーでも繋ぎ合わせて、なんとなく分かっていく。
「とうだいもとくらし」もまず、「灯台もとくらし」となり「灯台もと暗し」に進んで「灯台下暗し」に辿り着くわけです。
『極彩の岬』(熊坂俊太郎著・幻冬舎)は、灯台守が話の中心に置かれ、太平洋戦争の悲惨な状況を描いた作品です。
現在では、灯台はコンピュータで制御されていて、日本中の全ての灯台は無人化されているそうですが、昔は人間が手作業で行なっていたらしい。結構な重労働だし、孤独な仕事でした。岬の先端部って、人里離れていますからね。
作者の熊坂俊太郎は、まるで画家のようにいろんな情景を書き込んでいます。
褐色の火成岩、恒星のように輝く日向夏、潮風に晒された有刺鉄線、置き去りの銀色の自転車、角砂糖のように小さな官舎、そして白亜の灯台。
読書の醍醐味は、頭の中で情景を二次加工するところにあります。それは、人によって少しずつ違う。映画と違うところです。
本編で「宗教も科学も単一の原理だけを信奉し、それに反論する者を弾圧する。そういう一神教こそが世の中を歪ませる」という話と「最近、みんな怒りっぽいし、じりじりと不寛容が広がっている。何かと人のせいにして、少しのことで苛立って、SNSですぐに攻撃してイライラを解消している」ってとこ、実にそうだと思いました。全員が同じように考えるだなんて、ホント気持ち悪いです。少数意見にも耳を傾けられるような存在でありたいと考えています。
【テーマ】タイトル・時代性・学習性 17点
【文章技巧】読みやすさ・バランス 18点
【人物描写】キャラクター・心理描写・思い入れ 16点
【構成】つかみ・意外性・スピード感 16点
【読後感】爽快感・オススメ度 16点
【合計】83点