週刊誌不況と言われ、続々と廃刊が続いている中、隔週で発行される『Sports Graphic Number』誌はスポーツファンの心を掴み、異彩を放っています。写真が多めってところ、受けがいいと思いますが、何といっても創刊号に掲載された山際淳司の『江夏の21球』が話題になったのが成功要因の全てである気がします。それほどに、インパクトが強かった。
まぁ、劇画顔負けのドラマチックな展開を細やかな取材を重ねた上で、微妙なアヤを紐解いていく手法も見事なもので、簡潔で無駄がないタイトルも含め、驚かされたものです。何度も読み返したくなる。
で、読み返したくなって購入しました。『スローカーブをもう一球』(山際淳司著・角川文庫)。『江夏の21球』も収載されています。
その中で『背番号94』に心を奪われました。
千葉県立下総農業高校出身の黒田真治投手が長嶋茂雄監督に請われて、ドラフト外でジャイアンツに入団するところから始まります。昭和50年、赤ヘル初優勝のオフで、長嶋巨人最下位のあの年です。
プロ野球に限った話ではないんでしょうが、リクルート時には、たくさんの甘言を弄し、とにかく頭数を揃えようとします。その上で、そこから先は自己責任でと突き放す。その感じに、馴染める人とそうでない人がいます。つまり、自分で考えて行動を能動的に決められるのと、指示されたものに従うだけの受け身なタイプ。それほど力の差がなかったとしても、心の持ち方で大きく人生が変わるってことが『背番号94』のタイトルに込められています。最初は63だったものの、打撃投手となってからが94。なんだか窓際へ追いやられたような話です。
例えば、合宿所の個室の床はタイル張りで、その上に絨毯が敷いてあるんだけど、何故そうなっているかに気付いたのは、ずっと後になってからでした。部屋に戻って練習するためだとは分からなかった。部屋は休むためじゃなくて、トレーニングルームだということ。ライバルは誰も教えてくれません。ハッとさせられます。学生時代と違って、みんなライバルなんですね。
それでも黒田投手は、打撃投手となっても悔しい気持ちがなかったと言います。そうですか?そういうのも含めて、プロだってことです。
山際淳司は、直接的な表現を抑え、行間にたくさんのメッセージを込めているのが味わい深い。もう少し、長生きして欲しかったスポーツノンフィクションライターの草分けでありました。