中学のとき、ちょっと変わった友人にイワイハラという男がおりました。
小柄ではあるものの、肩幅が異様に広いがっちりした体躯で、噂では空手二段だとか。
普段はニコニコしているけれど、怒ったら怖いという評判でありました。
まぁ、怒ったら怖いって、誰でもそうなような気がしますが。
逆に言えば、怒らなければ怖くない(←「それは言う必要ないだろ!」「ズルッ」)。
…当時、流行っていたドラマ『柔道一直線』(主演:桜木健一、助演:吉沢京子)に出てくる足でピアノを弾く近藤正臣(いくつだ!?)みたいな感じで、ちょっと大人の中学生。
知らないことをいっぱい知っているので、いろいろ刺激を受けていました。
そのとき覚えたのが、推理小説の世界。
彼のワンランク上の理屈っぽさは、読書から来ているものと分かったからです。
そして、『創元推理文庫』のアガサ・クリスティ、レイモンド・チャンドラーが、翻訳モノに対するアレルギーを払拭させてくれました。
ブックカバーに主要な登場人物を書き込み(英語名は覚えにくいので)、建物の見取り図を巻頭ページに書き込むサービスで、読者の想像力を掻き立てます。
中でも、すっぽり嵌まり込んだのが、エラリー・クイーンです。
大体が文庫本で400~500ページのボリュームなのですが、彼のストーリーは最初の100ページが何を言ってるのかがさっぱり分からない。
その苦痛を我慢し切ると、圧倒的な快感が拡がっていくのです。
当時は、片道一時間かけての電車通学でしたから。
これはもう、いい修行となりました。
さて、このエラリー・クイーンもの、最終章の謎解きの前に、“読者への挑戦”というページがありました。
これが何とも言い難い興奮を生み出します。
難解な数学の文章題にも似て、そこそこ自惚れてる中学生には、痛快な仕打ちでもありました。
この挑戦パターン、『刑事コロンボ』や『古畑任三郎』などに通じるんだけど、時間的な制約がない分、小説のほうが興奮を倍加させてくれます。
(つづく)