ねじめ正一という作家がいます。
直木賞受賞者ではあるもののジャンルに偏りがあり、メディアへの露出もそれほどでないので、あまり知られておりませんが、『詩のボクシング』初代チャンピオンとして、詩の世界では第一人者であります。
全然知らない世界だったけど、短い言葉の中にいろんな意味をこめられるんだから、それはもう言葉の達人です。
ちょっと驚きました。
そのビックリした作品が『落合博満 変人の研究』(ねじめ正一著・新潮社)です。
その人のちょっとした言動から奥深いものを読み取る力。
天才は天才を知ると言うか…。
普通にしていると見えないものが見えるのでしょう、きっと。
それにしても、落合博満は、やはり普通じゃありません。
・封建的な運動部の上下関係になじめず、高校野球部時代、八回入部八回退部を繰り返した。
・セレクションに合格した東洋大学も三ヶ月で中退。
・故郷に帰ってプロボウラーを目指すも、交通違反の罰金支払いで受験できず。ちなみに最高 アベレージは286だった。
・プロ入り後のキャンプでは、足腰を鍛えるためと言って一ヶ月バットを振らない調整を。
・中日監督に就任すると現有戦力を底上げして戦うと宣言。FAやトレードを行わなかった。
・現場指揮官としては無表情を徹底し、選手を批判するようなコメントは発していない。
・日本シリーズで八回まで完全試合を続けていた投手を九回に交替させ、説明はなかった。
不思議なエピソードばかりですが、ねじめ氏はそれらの経験がすべて生きていると看破しています。
さらに、本書には、そんな気配を持った仲間の論客が登場します。
江夏豊・赤瀬川原平・豊田泰光・高橋春男…
眼力の凄い人は、凄い眼力の人を見逃しません。
そういう見方があるんだ!!
いやぁ、やられました。この本、超オススメです。