その昔、マーケティングの授業で必ず出ていたのが、ビール業界におけるキリンの一人勝ち状態で、その牙城を崩すのは難しいと思われていました。クープマンによる市場シェア理論では、73、9%以上が市場寡占型とされ、キリンビールこそが絶対王者であると認知されていたのです。
そこへ一石を投じたのが、住友銀行から樋口廣太郎社長を迎い入れたアサヒビールです。
ビールは鮮度が命だとして、三ヶ月を経過した在庫を全て回収する荒療治を行い、コクとキレの両立を前面に打ち出したスーパードライを武器に、社員を鼓舞しました。
その結果、まさかまさかの首位奪還を成し遂げます。
このあたり、『前例がない。だからやる!』(樋口廣太郎著・実業之日本社)に詳しく書かれています。
従来の手法を否定するということは、前任者を否定するわけで、社内的にギクシャクするのは当然です。
それを外部からやって来たからこそ、容赦なく斬り捨てられたんでしょうが、エゴサーチするようなメンタルではやりきれなかったと思います。
月に一度、社内で行われる社員同士の飲み会「ビールデー」に、最初の一杯目をできたての新鮮なビールを振る舞い、二杯目からは回収した古いビールを飲ませるという話は痛快でした。時間が経つと美味しくなくなるというのを身をもって体験させたわけです。こんなビールをお客様に飲ませるわけにはいかないと、本気で思わせることに成功しました。そして、その代わりのスーパードライ。よく出来てるわぁ。
カリスマ性のあるトップは前例がないことを恐れません。平均で測れないからこそのカリスマ。直接関わることがなければ、ただただ面白い、そう思いました。