「年に一度なんだけど、子供が回ってくるんで、お菓子を用意しとかなきゃいけないんだ」
「エッ、それ、何のイベントですか?」
「“おだいしさま”っていうんだけど、なんていえばいいのかね、このへんの風習よ」
「子供が回るって、どこを?」
「だから、あちこちにお地蔵さんがおるんよ。そこでお菓子を渡す。昔からの決まりごと、4月21日」
「えっ、オリエンテーリングみたいなことですか?」
「そうそう、集落ごとに当番があって、21日はずっとおらにゃあいけん」
「じゃ、学校は休みなんですか?」
「休みにはならんやろ。学校が終わってから、子供が出かけてくる。そのために、100円ぐらいのお菓子を用意しておくんだ」
「面倒くさいですねぇ」
「そうよ、面倒なんよ、ワッハッハ」
Tさんの説明ですが、なんだか要領を得ない。
ネットで調べても、4月21日にそれらしい行事もないし…。
だけど、このへんじゃ、常識らしいのです。4月21日に合わせて、そういう(?)準備をすること。
もうちょっと若い人に聞いてみましょう。
「あぁ、10円持ってお参りするんです。そうすれば、お菓子をもらえる。子供のころは、楽しみにしてました」
「それ、なんていうの?」
「なんて、言うんでしょう?神様だか、仏様だかのお参りで、確か“お接待”と言っていたような」
「10円でいいの?」
「ハイ、いいんです。子供ですから」
「なんだか、パチンコの景品交換みたいだね」
「あっ、そんな感じなのかもしれない(笑)」
もう一度、“お接待”をキーワードにインターネット検索。
すると、ありました。どうやら、西日本に定着した風習で、お遍路さんの亜流のようです。
“おだいしさま”とは、弘法大師のことらしい。
“お接待”は、お参りする人に向けられたおもてなしの心という意味。
ふ~ん、子供の接待ねぇ。教えるんだ、そんなこと。
いわれが分からないのに、決まりだからと言って従うのは、いかにも田舎らしいスタイルですね。
結局、それは平凡な日々をちょっとだけ変えるために、誰かが決めたのでしょう、オリエンテーリング。
そうやって集まっては、大人は昼間から酒を飲む。なるほどねぇ。
田舎の近所づきあいは、年功序列や男尊女卑があって、味わい深いのであります。