都会のネズミと田舎のネズミ

時事ネタを拾いながら、笑いの方向へと導きます。3打数1安打を目指しています。

遺伝子のこと

引越しで机を整理していたら、昔の興味深いメモ原稿が出てきたので再掲します。
前の会社の広報部時代、講演をお願いした利根川進博士を成田空港へお迎えしたときの、クルマの中でのやり取りです。個人教授を受けたような至福のひとときでありました。


「遺伝子を調べていくことで、その人がどういう人間であるかが客観的に分かるんですよ」
  「そうすると、能力が数値化されるってことですか?」
「そう。だから、人間を一ヶ所に集めて同じような教育をしても無駄なんです。それよりも、その人に合った個性を伸ばすべきです。私だったら、私自身のことを誰よりも正確に知りたい」
  「それは、先生が自信があるからですよ」
「しかし、そもそも頭がいいというのは何を指しているか、定義自体に問題があるんだ。個人情報といっても、記憶力・企画力・分析力などいろいろあるでしょう」
  「だけど、全部ダメだなんてことになったら…」
「そんな人間は、子供を産んじゃいけないんだ。(笑)遺伝子情報では、病気になる可能性も分かる。何も、大きなマイナスがあると分かっていて、子供を産むことはない」
  「それと、頭が悪いのとは違うでしょう?」
「病気だって、どこまでをそう呼ぶかは、時代と共に変わっている。痴ほう(認知症)も昔は病気に入れてもらえなかった。しかし、極端に頭が悪いのは、病気だとも言えるんだ」
  「うーん、この話はがん宣告と似てますよね。治る見込みがあるなら教えてほしいというような」
「ハハハ、あなたの話には矛盾がある。遺伝子情報を伝えてもらえなかったら、結局、伝えていることと同じになるじゃないか」
  「アッ、そうか」
「日本人は昔から肉体が滅びても魂が残ると信じている。これを生物学者の立場でとらえるならば、遺伝子が魂として次代へ伝わっていくということになるんだな」
  「それじゃ、結婚していない私は魂が残らない?」
「いや、残したかったら、人工授精という方法があるから。もっと言えば、精子を完全な形で冷凍保存すると、一万年後に自分の子供を送り出すことも可能ですよ」
  「先生、お子さんは?」
「6歳を頭に3人。僕は不器用な人間なので、二つのことをいっぺんにできない。だから、若いうちは研究に没頭し、後から子供を作ったんだ」


これは、93年7月のできごと。先生がノーベル賞を受賞して、5年後のことです。
広報部はいろんな人に会うのが仕事だったので、いろんな経験をさせてもらいました。