10/19のブログで有能な監督についての条件を列挙しましたが、各球団のコーチについても検証を加えてみました。
新監督として迎えられたとき、自身の息のかかった同僚や後輩を集めるパターンがよくあります。そういう仲良し内閣は、やり過ぎると上手くいきません。チーム内に派閥が生まれるもととなるからです。それと、コーチを能力でなく、人間関係で選んでいるってのがよくない。選手以上に能力本位で選ばれるべきなのがコーチですが、好き嫌いが基準だと思われてしまうこと自体、悪であると。
もう一つ、任命における判断基準が論功行賞みたいになっているケースです。査定を行う球団の幹部が、年俸の代わりとして振り出してしまう年金みたいな生涯保障。その結果、結果が出ないのにずるずると居座るOBがはびこるチームが意外なほど多いのです。そんなコーチ、人柄は申し分なかったりするんですけどね。
そのコーチの能力を測る客観的な基準としては、韓国・台湾や独立リーグを含む複数球団での指導歴が挙げられます。
そこで、2022シーズン前における各球団コーチの履歴を調べてみました。
〈ヤクルト〉
セ・リーグでは唯一GMが存在しており、コーチを最も人物本位で選んでいるのがヤクルトです。他球団でのコーチ経験有は、伊藤智仁(BCL富山・楽天)杉村繁(横浜)佐藤真一(オリ)池山隆寛(楽天)城石憲之(日ハム)尾花高夫(ロッテ・ダイエー・巨人・横浜)小野寺力(西武)緒方耕一(巨人・日ハム)の8人でした。生え抜きのコーチ達もしっかり実績を残しているので、現在の好成績もむべなるかなです。
〈DeNA〉
98年にマシンガン打線で優勝したメンバーが集められているのが、どうも気になります。その中で他球団でのコーチ経験有が、青山道雄(ロッテ)石井琢朗(広島・ヤクルト・巨人)齋藤隆(ヤクルト)相川亮二(巨人)田代富雄(韓国・楽天・巨人)大村(日ハム・ロッテ)嶋村一輝(中日)永池恭男(楽天)鶴岡一成(ロッテ)の9人。特筆すべきは、間を置かずリーグ内4チームを渡り歩いた石井琢朗です。現在、最もニーズの高いコーチだと言えるでしょうが、自身の待遇に不満を持たないのか?一言居士は劇薬でもあります。
〈阪神〉
監督がシーズン前に勇退を宣言したことで、さぞかしざわついたシーズンだったでしょう。人事は最大の関心事ですからね。
それはそれとして、他球団でのコーチ経験有を列挙すると、井上一樹(中日)北川博敏(オリ・ヤクルト)藤井康雄(オリ・ソフト)野村克則(巨人・ヤクルト・楽天)工藤隆人(中日)の5人。身内で固めがちなチームカラーです。それにしても、野村克則という人は有能なコーチなんでしょうか?ちょっと分かりづらい。
〈巨人〉
恥ずかしいほどに純血主義を貫いています。桑田真澄・元木大介、去年辞めちゃったけど宮本和知など、解説者からのOB登用の多さも独特です。だけど、他球団で手垢のついたコーチは受け入れないというのが一貫しています。小笠原道大(日ハム・中日)駒田徳弘(楽天・横浜・四国IL高知)は例外で、あくまでも二軍・三軍担当レベルです。どうしてそんなことになるかと言うと、FAやトレードで選手を獲得するときに、引退後の手形を切りまくるからです。その結果、無能なコーチの吹き溜まりになって、人数ばかり膨れ上がっていくのが現状なのではないでしょうか。結果としてコーチの現役時代の輝かしい実績は、両リーグで群を抜いています。
〈広島〉
巨人と並ぶ引退選手への就職斡旋球団です。なので、他球団でのコーチ経験有は、河田雄祐(ヤクルト)高橋建(阪神)植田幸弘(西武)の3人のみで、いずれも元々がカープ出身でした。人事権はすべてオーナーが握っており、選手を見る目は厳しいものの、一度ファミリーとして迎えると甘くなる。自分で引っ張ったので、なかなか斬れなくなるようです。戦力外通告も同じで、タイミングがワンテンポ遅くなる。FA対策の後遺症でしょうか?人間関係を重視し過ぎるのは、良くも悪くも田舎の中小企業の発想であります。
〈中日〉
満を持しての立浪監督は引退後の浪人時代が長かったので、解説者時代の人脈から声をかけて多くのコーチをかき集めてきました。したがって、前任者がほとんど解任となり、残されたコーチも疑心暗鬼に陥っています。こういうの、決して良くはありません。選手からしても初めましてが多いわけですからね。初年度の最下位は、予想通りといえるでしょう。で、他球団でのコーチ経験有は、落合英二(韓国・ロッテ)西山秀二(巨人)大西崇之(巨人)片岡篤史(阪神)波留敏夫(横浜)中村豊(阪神)の6人と数こそ多いものの、ブランクありの人が多く、必ずしも能力を買われての起用ではないので、それも割り引いて考えています。
〈オリックス〉
2019年6月に福良淳一がGMに就任して、チームが大きく変わりました。ダルビッシュの専属トレーナーであった中垣征一郎をパフォーマンスディレクターとして招き、選手に身体の仕組みや使い方を学ばせます。昨年、ヘッドコーチとしてカープの二軍監督から水本勝己を引き抜いたのも、GMがウエスタンリーグにまで目を配り続けた成果です。最も人間を見抜く能力に長けた球団であると言えるでしょう。その結果、他球団でのコーチ経験有は、水本を含めて小谷野栄一(楽天)高山郁夫(四国IL愛媛・ソフト・中日)厚澤和幸(日ハム)入来祐作(ソフト)高橋信二(日ハム)風岡尚幸(阪神・中日)の7人です。それぞれが、能力を買われてのものです。
〈ソフトバンク〉
パ・リーグ球団の多くはGMが機能していて、監督やオーナーの情実人事が行われにくくなっています。ホークスの三笠杉彦は、母校東大ラグビー部の元監督で、異色の経歴を誇っています。そういう経験が、客観性のある人員配置に繋がっていると思われます。他球団でのコーチ経験有は、森山良二(横浜・西武・九州IL福岡・楽天)村上隆行(JFBL大阪・中日)吉鶴憲治(ロッテ)金星根(韓国・ロッテ)高村祐(楽天)田之上慶三郎(日ハム)関川浩一(韓国・楽天・阪神)松山秀明(オリ・阪神・韓国・ロッテ)小川史(オリ)大道典良(ヤンキース1A・巨人)の10人。韓国野球や独立リーグの経験を尊重しているのが特徴的です。
〈西武〉
ここは元監督の渡辺久信がGM。大半のコーチに一軍と二軍の両方を経験させているのが面白い。それだけファームからの育成を重視してるってことなんでしょう。FAで主力がどんどん出ていっちゃいますからね。そうなってから慌てることのないようにってのもあるかもしれません。
他球団でのコーチ経験有は、豊田清(巨人)青木勇人(広島)平石洋介(楽天・ソフト)田邊徳雄(韓国)小関竜也(巨人)清川栄治(広島・オリ)の6人です。田邊と平石は短いながら、監督経験もありました。
〈楽天〉
このチームは、わかったようなわからないような人事です。何せGMが監督ですからね。それより影響力のある三木谷オーナーが口を挟むので、指示命令系統がよくわかりません。わずか18年の歴史の中で、田尾・ブラウン・大久保・平石・三木とたった一年でクビになった監督が5人もいるなんてビックリです。いや、それでもなろうとする監督がいるってことにです。いないからのGM兼任とも言えそうです。
他球団でのコーチ経験有は、真喜志康永(近鉄・オリ・日ハム)光山英和(西武・DeNA)立花義家(ダイエー・オリ・西武・ロッテ)石井貴(西武・四国IL徳島)奈良原浩(中日・西武)佐竹学(オリ)三木肇(日ハム・ヤクルト)垣内哲也(中日)星孝典(西武)岡田幸文(BCL栃木)金森栄治(ヤクルト・西武・阪神・ソフト・BCL石川・ロッテ)の11人ですが、能力を買われたというよりも頭数を揃えたって感じです。
〈ロッテ〉
パ・リーグでは唯一GM職を置いていません。その分、球団社長の独断専行が目立ち、自分の娘をマネージャー登録した一件で、井口監督もろとも政権が瓦解したのはつい最近の話です。監督自身のチームマネジメントは上手くいっていたんですけどね。やはり、編成部門は重要だということです。他球団でのコーチ経験有は、森脇浩司(ソフト・巨人・オリ・中日)木村龍治(巨人)清水将海(ソフト)河野亮(楽天)的場直樹(日ハム)鳥越裕介(ソフト)小坂誠(楽天・日ハム・巨人)の7人ですが、それ以外にトレーニングコーチとしてヤクルトから菊地大祐、広島から根本淳平を引き抜いているのが抜け目のないところでありました。ただし、井口監督退任に伴い、小坂以外の6人が辞めてしまったので、吉井新政権には早くも暗雲が立ち込めているのを付け加えておきましょう。
〈日本ハム〉
このチームはいち早くGM制度を導入し、また有効に機能しておりました。そこで、コーチ陣に目をやると、他球団でのコーチ経験有は、林孝哉(ソフト)武田勝(BCL石川)山田勝彦(楽天・オリ・阪神)山中潔(ロッテ)上田佳範(中日・DeNA)の5人と意外に少ないですが、現役時代に大リーグを経験(木田優夫・多田野数人)していたり、引退後スカウト・スコアラーを経験(林孝哉・島崎毅・川名慎一・伊藤剛・渡辺浩司)したりするので、視野を広く持った人材が多いというのも特徴的であります。
こうして見ると、人選の巧拙がチーム浮沈の鍵を握っているのがよくわかります。
そして、後継者を育てておくのも編成担当者(GM)の重要な責務であることも。
オーナーたちは、ドラフト指名なんかより、こういうことに真剣に取り組んで欲しいと改めて思いました。