幼い頃に両親が離婚し、二人の兄弟がそれぞれに引き取られて別々に暮らすというようなケースはどのくらいあるのでしょうか?
そして、長く音信不通だった兄が、二十数年後、母親と弟夫婦が暮らす家へ突然現れたら…。
『不審者』(伊岡瞬著・集英社文庫)は、そんな設定で始まります。
物語の語り手である主人公は、自宅で書籍の校正を行うフリーの女性校閲者です。職業柄ディテールに敏感で、細かいところがとても気になる。
だけれども、思ったことをなかなか言い出せない。そういう女性って、結構多いと思います。
そこのところ、作者はとても上手に描写していました。
いや、初期の作品では、女性心理を描くのに苦労していた印象ですが、何かあったのでしょうか、ここへ来てスゴく巧くなったように思います。
男性作家が女性目線でストーリーを進めるのは、簡単な話ではありませんからね。プライベートで揉まれなければ、家族や友人関係のしがらみは描けないんじゃないかと思う。
伊岡瞬のプロフィールについて、多くが語られていないので分かりませんが、身近にゾワーっとする参考事例があるような気がします。だとすれば、イヤだね、書かれた方は。作家の周辺では、そういうのを巡ってグチャグチャするかもしれません。なかなかだなぁ。
本書はいわゆるイヤミスというジャンルに属します。これがどうも、肌に合わない。面白いのは面白いんだけど…87点です。