「一匹でも見つけたら、その五十倍はいるんです」
このキャッチコピーをどれほどの責任感で書いているのか分かりませんが、いますよね、コードネーム“G“。昆虫界の抱かれたくない虫ナンバーワンの嫌われぶりは、圧倒的です。
だからこそ、これをやっつける商品は、安定して売れる。もしかして、絶滅されては困るなんて思ってるかもしれません。
怪しいぞ、ナントカ製薬害虫駆除推進部。君たちは、衛生的でない住宅地を中心にこれをバラ撒いて来なさい、なんてね。
クスリ業界関係者は、いつまでも治らない方が有難いと、最初からそう思っているのではないか?
パンクしないタイヤなんて、作っちゃいけないと学んでいるような気がします。
「ウィルスは純粋な生物じゃないから薬では殺せない。抗生物質でもダメ。対症療法をしながら人間自身に備わった『免疫機能』に頼るしかないんだけど、新種の、しかも強力なウィルスには歯が立たないことが多い。そこで、ワクチン開発になる」
この文章が書かれたのは、2003年だと言います。伊岡瞬氏がデビュー前の会社員時代に、新人賞応募のため執筆したけれど、陽の目を見なかった作品でしたが、「そう言えば昔、こんなのを書いた」と編集者との雑談の中で、今ならいけると浮かび上がったものだそうです。それが、昨年11月に文庫版への書き下ろしとして出版された『赤い砂』(文春文庫)です。
これ、奥深い話でありまして、新薬の効き目を確かめるための犠牲はつきもので、どこまでを犯罪だと見極めるかは、立場によって変わると思いました。いや、ストーリーとは関係ないんだけど、製薬会社は決して純粋な社会貢献タイプじゃないってこと。独り言です。
手練れとなる前の文体なので、ゴツゴツした感じがそこらじゅうにあるんだけど、未知の分野を丁寧に勉強したというのは充分に伝わりました。
今日、読むのにぴったりした作品です。85点。