都会のネズミと田舎のネズミ

読書ネタ、スポーツネタ、お笑いネタ、時事ネタを拾いながら、笑いの方向へと導きます。3打数1安打を目指しています。ハズレよりもアタリを読んでください。

銀の匙

前職の保険会社は急成長していたので若い社員が多く、その教育係をしていた私は、モチベーションを上げるためのオリジナリティーがあるユニークな宿泊研修を企画しておりました。そのひとつが、表現力向上研修です。

基本にある考え方は「話す力は聴く力、書く力は読む力」です。表現するための「話す」「書く」を鍛えるには、「聴く」「読む」が大事だということに気づかせる(納得させる)のを目的としていました。

そこそこ賢い社員が揃っていたので、子供だましの幼稚な手法は通用しません。教える側は舐められちゃいけないので、生徒側に少し難しいと思わせる課題がちょうどいい。

そこで編み出したのが、桂枝雀の落語CD『つぼ算』の演目を聴かせて、その内容を400字で要約させるという授業です。

落語なんてほとんど聴いたことがない上に、早口の関西弁、加えて時代背景が江戸時代なので、初見ではえげつない難しさ。加えて、慣れない400字詰め原稿用紙への要約ときて、集中力の限界までの発動が要求されます。これは、良かった。やったから能力が上がるってことじゃなく、脳内のキャパを拡げる動機付けになったという意味で、社会人教育として、最高レベルの研修になったと自負しています。多分?

 

関西の名門、灘中学の国語の授業では、三年間にわたって『銀の匙』(中勘助著)を読み込ませたんだそうです。

一冊250ページの小説を三年がかりで読む。

そこで、どんなものかと小学館文庫の解説付きのやつを取り寄せました。

中勘助氏の自伝的作品で、明治時代の風俗が追体験できるような内容です。ストーリーは、なんかよくわからないぼんやりしたものですが、加えられた解説が興味深く、なるほど教えるってこういうことなんだなと、感心することしきりでした。

灘の生徒たちは、そういうアプローチで国語力を身に付けているんですね。素晴らしい。

絵画や音楽もそうやって深めれば、見えてくるものが違うのかもしれません。見識って、そういうことなんじゃないかな?