ミステリーの題材は、時代の流れがあるように思います。世相を反映させることが大事なので、メディアを賑わす話題がテーマとなりやすい。
作家からしても、ゼロから創り出すよりも、現実に起こった事件をベースに考えた方が楽だからってこともあるでしょう。
今だったら、投資詐欺、新興宗教、老人介護ってところ。金余りの高齢社会であるが故の諸問題とでも言いましょうか。お金と孤独が描かれやすいんです。何だってオープンに相談できる人が少ないということ。そういう心の闇をえぐり出すことこそが、売れっ子作家の腕の見せどころなのであります。
『ウツボカズラの甘い息』(柚月裕子著・幻冬舎文庫)は、そんな社会のダークサイドを執拗に描いています。
夫婦であってもいえない秘密。楽して稼げる話に乗りやすい心理。大切な人を失ったときの孤独。美醜に関するコンプレックス、あるいは優越感。介護の沙汰が金次第であるってこと。詐欺のベースは、恋愛の駆け引きに始まるなどなど。
ウソには、ちっちゃいのから大きいのまで、いっぱいあるなぁと改めて思わされました。
ちなみに、ウツボカズラとは食虫植物の一種です。美しさを武器にすると、男女を問わずいろんなのが集まってくる感じ。ゾワゾワします。
【テーマ】タイトル・時代性・学習性 15点
【文章技巧】読みやすさ・バランス 17点
【人物描写】キャラクター・心理描写・思い入れ 18点
【構成】つかみ・意外性・スピード感 14点
【読後感】共感性・爽快感・リアリティ・オススメ度 15点
【合計】79点