前職で、しばらくの間、萩本欽一さんと仕事をしたことがあります。
会社からは、著名人の講演会をせよということで、予算が組まれていたのですが、前任の経理処理をよく見てみると、広告代理店に仕事を丸投げしていたため、大きなお金をボラれているのが分かりました。
通常、イベントを行った場合、代理店の取り分は管理費として、総予算の15%となっています。
したがって、代理店は利益を上げるために、予算を節約するという工夫を働かせません。
むしろ、金額を大きく大きく拡げていきます。
アルバイトの人数を多めに確保する、弁当を余裕をもって注文する、舞台周りを出来るだけ派手に作り上げる、有料の告知広告を出す、ちらしパンフレットを豪華に作りこむなどなど。
社内では、コストの見直しが徹底されているのに、代理店にその意識が欠落しているのは困ります。
そこで、広告代理店を外し、自分たちで直接イベントを行うことに決めました。
事業仕訳けの結論は、広告代理店ごっこでありました。
候補を決めたら、タレント事務所へ直接アプローチします。
これが面白い。
普通、ちゃんとした会社本体の役職者が、仕事の依頼で事務所やマネージャーに電話するなんてことはありませんからね。向こうは、ビックリします。
しかも、こちらはたとえマネージャーであってもタレントさんに接するように丁寧な会話を。ここが、広告代理店と違うんです。
しかも、その場での交渉決定権を持っていることも大きい。
いやらしい駆け引きもナシ。
だから、ウケがいいんです、マネージャーサイドの。
「将を射んと欲すれば、まず馬を射よ」
萩本氏のマネージャーであるKさんは、そのへんの呼吸を汲んで心配りをする、スゴい人でした。
なにしろ、あの欽ちゃんのマネージャーですからね。
相手が何を望んでいるのか、先読みするプロフェッショナルであり、一を聞いて十を知る。
あっという間に意気投合し、イベントを各地でご一緒させていただきました。
これがまた楽しい仕事で、イベント以外でも、打ち合わせと称してテレビの収録に立ち会ったり、メンバーが足りないからと麻雀をやったり、食事をしたり…直接のビジネス以外での人間関係をとても大切にする人で、勉強になりました。
そんな風に付き合いだすと、呼び方が難しい。
欽ちゃんじゃ馴れ馴れしいし、萩本さんでは堅苦しい。
そこで、業界関係者と同じく“大将”と呼ぶことにしました。
以来、夜に会っても「おはようございます」と。
広告代理店ごっこは、業界人に化けることで、完結したのであります。
その私がねぇ。
お客様から“大将”と呼ばれるなんぞ、誰が想像できたでしょうか?
“店長”“ご主人”“マスター”を抜いて、第一位は“大将”。
岩波の辞書を引いたら、こうありました。
たいしょう【大将】 他人を親しみ、または、からかって言う語。
なるほどねぇ。