だいぶ前の話ですが、勤めていた会社社長のもとで広報担当だったとき、評論家の田原総一郎氏の取材を受けることになりました。
私のボスは、周囲から拝まれんばかりに神格化されているほどのカリスマで、業界で誰も真似できないような発展を遂げたこともあって、マスコミの注目を一身に集めていたのです。
ただし、一度にあまりにも多くの夢を詰め込むのと、右も左も全ての関係者を肯定的に語るので、論理矛盾をきたすことも、ままありました。
私の仕事は、それをフォローすることです。インタビュー後のお見送りで、別れ際にいくつか付け足すなんてことをやっておりました。
しかしながら、田原氏に限っては舌鋒鋭く、容赦ありません。
「それは、おかしいな。さっき言った話と違う」
納得がいかなかったのでしょう、ニコリともしない。そのうち、イライラしているのがハッキリ分かります。
この手の取材に100回以上立ち会いましたが、これほど汗をかいたことはありませんでした。
だけど、思います。彼の忖度しない姿勢は、公平性を期する言論人として、むしろ当然で、新聞社や出版社の後ろから手を回す的な裏ワザを受け付けるなんてことは無いのです。
そんなこともあって、私は田原氏のことを「ウソのない人」として、信用しています。相手の思想の如何に関わらず、自分で確認していることについてはスタイルを曲げない。だから、彼が言ってることや書いたものは、私の貴重な情報源です。
2013年の刊行ですが『日本政治のウラのウラ』(講談社)は、政治家を引退して間もない森喜朗氏と田原総一郎氏の対談本です。
この中で、田原氏はこう言っています。
「ぼくは正直なところ、森さんがここまで話すとは思わなかった。この本にはすべてが詰まっている。政治家の交渉とはどういうものか、交渉で勝つ、あるいは負けるとはどういうことなのか、リアルに示されている。政治とは何か、政治家とは何か、ここまでわかる本はない」
そのとおりだと思いました。会話だけが続くので、ちょっと冗長な部分もあるものの、そこまで言っちゃうんだがたっぷり詰め込まれています。いや、森氏もウソがありませんでした。田原氏がツッコまないんだから。98点。
明日以降、本書を元に続けます。
(つづく)