「こちらは鉄道警察ですが、おたくの息子さんが山手線の車両で痴漢行為を行い、逮捕されました」
30年くらい前の話ですが、実家の母へそんな電話がかかってきました。このとき母は動ずることなく「息子なら、ここにおりますけど」と切り返し、電話はすぐに切られましたが、何を見てかけてくるのでしょう? そこからお金を詐取するまでは、複数の登場人物が必要で、相当に手間がかかりそうだけど、楽しそうな展開でもあります。私が売れない劇団員だったら、本腰を入れたかも?
満員電車がある限り、イヤでも身体が密着するわけで、油断していると手や肘が当たってしまうこともあり、あらぬ疑いをかけられる場合もなくはない。手のひらはダメだけど、手の甲ならばイイとか、動かさなければセーフなどと、勝手に判断基準を設けて線引きしている男性も多いでしょう。
中学のとき、電車通学をしていた私は、二度ほど痴女に遭遇したことがあります。しっかりと握ってくる行為に対し、声なんてあげられるもんじゃありません。相手の顔も見られない、そういうもんです、被害者心理。
私の常識では、知らない人は何をするか分からないので、ひたすら怖い。殴られたら殴り返すみたいには、プログラムされていないのです。
そんな人の方が圧倒的に多いと思われます。だから、この業界は、廃ることがありません。と思う。
『検事の死命』(柚月裕子著・角川文庫)では、痴漢の冤罪をめぐる容疑者と検察の攻防を描いています。
今どきは、繊維検査と言われる手指に残された衣服の繊維を検出することが判断の決め手になるようですが、それがない場合は、自白するように追い詰めていく。容疑者の前歴や性癖も問題視されます。混雑する電車に何故乗ったのかも聞かれます。そして、ほとんどの場合、示談にするようです。勉強になるねぇ、誰の?
検察官が圧力に屈せず、闘い抜くドラマはキムタクの『HERO』と同じですが、革ジャンにジーンズよりもリアリティがあります。
面白かった。90点です。