都会のネズミと田舎のネズミ

読書ネタ、スポーツネタ、お笑いネタ、時事ネタを拾いながら、笑いの方向へと導きます。3打数1安打を目指しています。ハズレよりもアタリを読んでください。

人たらし

将棋の島朗九段は「棋士の使命は普及と対局である」と言って、アマチュアとの関わりを大切にしていました。

そんなのは建て前で本音じゃないだろうと思っていましたが、他の棋士も若干の温度差はあるものの、各種イベントに積極的に参加しています。

ファンがいてこその自分たちであるという意識が若い頃から徹底されているようで、献身的とさえ思えるサービス精神に驚かされたものです。

エンターテイメント産業は、多かれ少なかれ、同じような考えを持っています。スポーツも然り。オリンピックやパラリンピックを見ながら、なるほど、底辺人口が増えないと盛り上がらないもんなと思いました。

 

しかしながら、野球には、そういう感覚が欠落しておりました。

マチュア球界が、社会人野球からの引き抜き事件をきっかけに、プロ野球に対して絶縁宣言をしていて、ほとんど交流がなかったためです。

そのため、プロ野球を引退した選手が高校野球を指導するためには、まず、教員資格を取得することが求められていました。

これ、嫌いな受験勉強をしなきゃいけないし、時間がかかるし、とりあえず無収入だし、意地悪みたいなもんです。挑戦する人は、ごくわずかでした。

そうこうしているうちに、野球人気はサッカー人気に取って代わられ、競技人口も減少の一途です。

さすがに危機感を覚えた学生野球連盟が、教員資格を必須条件とせず、研修を受ければ指導者になれるよう一気に門戸を開きました。2013年のことです。以前は、プロ選手が母校で練習することさえ憚れていたのだから、隔世の感です。ようやく、プロ野球関係者が普及に目覚めたといえるでしょう。

 

夏の甲子園優勝チームである智弁和歌山高校の中谷仁監督は、1997年阪神タイガースにドラフト1位で入団したバリバリのプロ野球経験者でした。選手としては、怪我の影響もあってパッとしませんでしたが、野村克也星野仙一原辰徳らの監督に仕え、いろんなタイプのマネジメントを学んだと思います。貴重な財産となりました。

それに加え、これも新制度で指導者となったイチローが、昨秋にチームの臨時コーチとして教えてくれたことも大きかったでしょう。彼は、選手たちに「ずっと僕は見てるから」と言って去って行ったそうです。どうです、この人たらし振り。この言葉に乗せて、中谷監督は選手たちに言いました。

 

「いつも、あの3日間のようなスタンスで、あの時と同じ気持ちでやっていってほしい。いつもイチローさんがくると思って、グラウンドの周りを掃除したり、気になることを放っておかずに、ちゃんとやらなきゃいけないんじゃないの? それが、イチローさんが毎日やってきたルーティンと同じことだと意識しながら、毎日グラウンドに臨んで、野球と向き合っていく。そういうことを大事にしていってほしい」

 

二人とも痺れるねぇ。