エラリークイーンのミステリー小説を読むためには、最初の100ページぐらいは苦行が続きます。
ほとんど何も事件が起こらない中で、いろんな人物が複雑に絡まっていくのが常で、カタカナの名前が馴染まない上、地名の問題もあって、さっぱりイメージが湧かないからです。
創元推理文庫では、目次の次に登場人物一覧が整理されているのが常道で、翻訳ものの読者はそのあたりもクリアしなければいけません。
それにしても、エラリークイーンはスタートが遅い。途中で諦めた人も多いのではと思います。
反対に、冒頭からグッと惹きつけるのが得意な作家もいます。
短編をたくさん書いていると、そういうのが上手くなるのかも。伏線を張り巡らすよりも、人物に焦点を当てて、具体的なイメージを作りやすくするのでありましょう。これをさらに効率よくするために、テレビドラマのようなシリーズものとして育てていくのがプロの技なのであります。
その第一人者が今野敏。
東野圭吾に負けず劣らず、物凄いペースで書きまくっておりますが、評価されるようになったのは割と最近の遅咲き作家です。
一般には、内藤剛志主演の『警視庁強行犯係・樋口顕警部補シリーズ』とか陣内孝則主演の『隠蔽捜査シリーズ』、佐々木蔵之介主演の『ハンチョウ安積班シリーズ』などテレビドラマで知られているのではないでしょうか?
繰り返すことで、登場人物のキャラを際立たせる。読者にそんな人が実在するかのように思わせて、応援させてしまえばこっち(?)のものです。テレビにはなっていないものの、任侠シリーズではヤクザの親分さんに魅せられました。これも今野敏の仕事です。
本日ご紹介するのは、捉えどころのない放送局の記者である布施京一が活躍するシリーズの第一弾、『スクープ』(集英社文庫)です。
読みながら、実際のニュース番組の出演者が重なって、イメージが浮かびやすくなりました。これが今野マジック。キャラクターをハッキリさせることで、そのファンを惹き込んでいくのです。
シリーズの主人公は、違法スレスレで取材を続ける、だけど実は正義感の塊の男が警察を巧みに操って、悪を懲らしめる今風な勧善懲悪のストーリー。うまいんだよなぁ、コンパクトな起承転結のまとめ方が。何となく落としどころがわかってしまうので、意外性は乏しいかもしれませんけどね。テレビドラマ仕様ですから。80点です。