最近のNHKテレビ将棋トーナメントでは、AI(人工知能)による形勢判断が表示されていて、昨年あたりからは、次に指すであろう相手の候補手を三つ列挙するようになりました。
それが良いような悪いようなで、解説を担当するプロ棋士の存在感がぼんやりします。
つまり、解説を解説することで、何となく緊張感がなくなったのです。
聞き手の女性棋士に至っては、問題集を解くことなく、いきなり解答ページをめくるようなスタイルで、将棋の考える楽しみを奪っているように思います。本当は、直感からくる素人っぽい指し手を提示して、それを解説者が噛み砕きながら進めていくようなプロセスがテレビ将棋の楽しみ方なんだけど。省略し過ぎた参考書は、もっと強くなろうとする中級者の勉強に不向きです。
ところが、先週放映された藤井聡太竜王と伊藤匠五段の対局を解説した渡辺明名人は、ひと味違ってました。
ほとんど見ないんです、AIの候補手。信じないんです、AIの優劣判断。
なるほど、答えを鵜呑みにせずにAIと闘っていました。これがトッププロの矜持です。
解説の中では、むしろ表情や仕草からの対局者の情報を読み取っていました。どうやら、軽い頷きさえもスキを見せることに繋がるとさえ思っているようです。目線が自陣にあるか敵陣にあるかも相手に与える情報になってしまうんだと。
それそれ、そういうのを聞きたいんです。プロの解説では。
プロ野球で、やたらと球速を気にしていて、球場にいながら電光掲示板の表示を見つめる観客が多いですが、大事なのは自分の目に映るスピード感のハズです。旅行に行って、景色の写真を撮りまくっている人は、案外、頭に焼き付けられていないんじゃないのかなぁ。
自分の脳に納得感がないと、自信を持てないのであります。