警察が取り扱う年間の死体の数は、約17万体もあるんだそうです。
そのうち犯罪性があるとみなされ検視に回されるものが約二万件。その中で、殺人と認知されるのが僅か千件。残りは不明なんです。殺人かもしれないけど、わからない。
警察の発表では、殺人の検挙率95%とされておりますが、その数字は千件に対してのものであって、二万件に対してではありません。
つまり、結構な数の殺人に絡む犯罪が見逃されているらしいというのが実態のようです。
これ、怒ったってしょうがない。警察が悪いわけじゃありませんから。
そういうことだから、ミステリー小説の題材に、事欠かないわけでもあるのです。
『アンカー』(今野敏著・集英社文庫)は、10年前に起きた大学生刺殺の未解決事件を捜査する警視庁特命捜査対策室の刑事が、報道番組のスクープ記者と絡みながら、謎を紐解いていくというストーリーです。
2010年に殺人罪に対する公訴時効が撤廃されたことに伴い、未解決事件の継続捜査を行う専門部署ができたわけですが、時間が経つほどに捜査が難航し、現場の志気が上がらずに世間の興味も薄れていく。そこへ敏腕のテレビマンが、捜査協力するってのが新しい。刑事が逆取材するのもドキドキするところです。
このあたり、登場人物へのキャラ付けが見事で、それぞれが本当にいるような気にさせるのが今野敏の真骨頂です。
ここまで行けば、テレビドラマ化しても不思議じゃないんだけど、この敏腕記者布施京一シリーズは何故か制作サイドから声がかかりません。
理由は簡単で、テレビ局がスポンサーを慮るリアルさが全くもってのNG案件だからです。
残念だなぁ。NHKでもダメなんですかねぇ? これ、ホント面白いですよ。会話体が多く脚本みたいで読みやすいので90点でありました。