朝井リョウの文体が難解だと思っていたら、もっと理屈っぽい呉勝浩の『爆弾』(講談社)に出会ってしまいました。
この作家も直木賞候補者だといいます。
「人の心をのぞける能力があるとします。サトリって妖怪が持つような力です。これは一見、とても便利に思われますが、よくよく考えるとだいぶ怖い。相手の心をのぞけるってことは、相手の汚い部分から逃げられないってことですからね。常人の何百倍、毎日のように仲間が抱える汚物のような本音にさらされて、失望し続ける人生を想像してみてください。私なら、正気でいられる自信がない」
作品の中では、こんな感じの会話のやり取りが続きます。
精神に異常をきたしている犯人との対話なので、普通じゃないのはわかるんだけど、対応する警察側も心理分析官みたいなのが言葉をぐるぐる使い回していて、ついて来れない人は置いていきますってスタイル。就寝時にまどろみの中でぼんやり読むような表現に止まらせず、脳内の全てが覚醒して働いていないと前へ進めないような文章が好まれるのが最近の傾向なんでしょうか。人の内面を描くってのは、そういうもんらしい。複雑ですね。そういう理屈っぽいのを好むのが読書家ってことなのか。
舞台のほとんどが警察署取調室の中でありながら、スピード感あふれる展開には、圧倒されました。これは作者のスゴい文章テクニック。設定も面白い。ただし、誰一人として登場人物に思い入れることはありませんでした。作者は冷たい人なんだと思う。う〜ん、難しい。87点。
だけど、他の作品も読んでみようとは思いました。複雑だねぇ。