私の好きなミステリー作家ベスト3は、今野敏、柚月裕子、それに相場英雄です。
いずれも文章が分かりやすい。そして、登場人物が魅力的でイメージしやすいからです。
だから、読んでいて、状況が目に浮かびます。読書の醍醐味はここ。脳内変換作業が楽しいのです。
人物に思い入れるのが何故かというと、作中でたまごっちみたいに成長するからだと思います。
例えば、配属されて間もない刑事が、体育会系で元気があって、大食漢で誠実なだけかと思わせておいて、少しずつ能力を発揮させるような展開は、その役柄が進化しつつ、実は読み手が変化していくというスタイル。すっかりハマっています。作者の思惑どおり。
三人ともそういうのがウマいんだなぁ。ないものがあるように見えるってこと。
『覇王の轍』(小学館)は相場英雄の最新作です。
警察キャリアの女性主人公が、北海道警察に着任すると間もなく、道内の病院を舞台とした贈収賄事件と歓楽街ススキノで起きた国交省技官の転落事故に遭遇します。そこから、鉄道行政の深い闇にぶち当たって…実名を避けながらも、どこの企業を指しているかは丸わかりなのが、いつもの相場流です。
この人、作家デビュー前は、時事通信社の記者でした。作品の中で「記者の取材と刑事の捜査は似ている…何度も事件現場に赴き、関係者の話を丹念に聞く。互いに持ち駒を相手に明かすことはないが、真犯人と真実を追うという最終地点は一緒だ」と書いています。なるほど、刑事が追求していく様子にリアリティがあるのは、そういうとこから来てるんですね。納得です。
本作のコシマキには、元厚労省事務次官の村木厚子氏が「貴方に追体験してほしい。彼女が組織で生き延びるための苦悩、真実を貫くためのあがきを」とありました。これも納得です。
ちなみに、覇王とは田中角栄のことを指しています。そして、その轍だと。納得×3でした。
いやいや、一気読みでありました。96点をあげましょう!