都会のネズミと田舎のネズミ

読書ネタ、スポーツネタ、お笑いネタ、時事ネタを拾いながら、笑いの方向へと導きます。3打数1安打を目指しています。ハズレよりもアタリを読んでください。

悪い夏

保険会社には、いろんな部門があって、大勢の社員が働いています。

大切にされるのは、何と言っても営業職です。ノルマを課せられるけど、ご褒美も多い。海外研修なんてエサがぶら下がっていたりします。

そして、システム部門。大量のデータ処理を伴うので、その効率を担う部署は、神聖にして犯すべからずです。多分、みんな賢い。

契約のメンテナンスに関する仕事は、役所っぽい。ひたすら、ルールに基づいて、淡々とこなします。顧客との間で揉めたとしても、法律の範囲で対処できる。言葉遣いさえ間違えなければ問題ありません。

厄介なのは、非常時における支払部門です。普通に支払えるならいいんだけど、払えない場合の顧客とのやり取りが難しい。特に、契約上で顧客サイドに錯誤があった場合。そりゃ、ほとんどのケースでは、保険会社の説明不足があります。だけど、その責任をお客様に押し付けて、交渉する。それが、支払部門の担当者の使命です。

その仕事は貧乏くじです。不払いと頑張ったところで、評価はされない。そして、信じられないくらい罵声を浴びせられます。「お前のかーちゃん、デベソ!」どころじゃありません。なので、この仕事の担当者でメンタルをやられる人が結構いる。います。

 

それと似ている業務が、市役所における生活保護窓口です。お役所の仕事は、規則通りに運用すれば定時で終わり、ちゃんとしてさえいれば誰でも務まるマニュアル業務として知られておりますが、生活保護絡みだけは違う。普通に暮らしていれば、見なくていいような生活をたっぷり味わうことになるからです。ルールがありながら、言葉のやり取りで結論が変わるような弱い者イジメみたいな仕事。矛盾だらけです。

ってなことを集約させたのが『悪い夏』(染井為人著・角川文庫)です。

セーフティネットだと言いながら、公平性を欠く生活保護の仕組みは、問題だらけです。年金よりも支給額が多くなるケースが少なくないってとこ、不愉快ですよね。現物給付にすればいいのに。

ヤクザの資金源になっているのもおかしな話です。これを担当する部署を組の者に任せた方がいいかもと思ってしまいます。

う〜ん、このテーマでは、モヤモヤし過ぎで、スカッとしません。まさにイヤミスです。

染井為人の点在する個性的な人物を並行して描きながら、終盤に向けて、それぞれを繋げていくというパターンは、このときに始まっていたんですね。いやぁ、不愉快だけど面白かった。痛痒い、そんなストーリーです。

 

【テーマ】タイトル・時代性・学習性 17点

【文章技巧】読みやすさ・バランス 15点

【人物描写】キャラクター・心理描写・思い入れ 17点

【構成】つかみ・意外性・スピード感 18点

【読後感】共感性・爽快感・リアリティ・オススメ度 15点

【合計】82点