大人になったら何になりたいかの設問に対し、YouTuberみたいな選択肢は一ミリもありませんでした。そんな仕事、なかったから。
だけど、今の子供たちにとっては、遊びながらお金を稼ぐ大橋巨泉みたいな存在が理想であり、放送作家さながらの毎日は夢のよう。上司や先輩にやいやい言われないってとこ、重要なんだと思います。アリとキリギリスの話、今どきはウケないんじゃないかな?
ただし、誰にでもできそうだからと言って、誰にでもできるものでもなく、自分を演出する能力だとか、企画をまとめ上げる力だとか、YouTuberには客観的に分析する冷静な判断とかが複合的に求められるので、その中で売れてる人は、やっぱり地頭がいい。倫理観や性格面は別として。
その中でも客観性を持つってとこがポイントで、カメラを回しているときに、日常を乗り越えて演じ切ることができるような、つまり、役者とプロデューサーと二つの顔を持ち合わせる多重人格的才能が、実は込められているっぽい。うん、別なんです。演じてる自分とそれを支えようとする自分。バカリズムですね。売れてるYouTuberは、みんな気分はバカリズム。
『正義の申し子』(染井為人著・角川文庫)は、悪徳詐欺を糾弾するYouTuberが、その匿名性を笠に調子に乗って追い詰めたところ、相手の逆鱗に触れて反撃され、生命の危険に晒されるって展開です。善意の人と悪意の人は、裏腹なところがあって、地雷が潜んでいる場所が人によって違うってとこ、作者はよく分かっていますねぇ。初期の作品ですが、人間観察の達人っぷりが随所に表れています。
ただ、おっかない人たちの残忍性は、そんな甘いもんじゃないと、ちょっとだけ思ったりしました。
【テーマ】タイトル・時代性・学習性 19点
【文章技巧】読みやすさ・バランス 16点
【人物描写】キャラクター・心理描写・思い入れ 16点
【構成】つかみ・意外性・スピード感 16点
【読後感】共感性・爽快感・リアリティ・オススメ度 17点
【合計】84点