年初に読んだことをすっかり忘れておりました。朝井リョウの『正欲』を映画で復習です。
テーマはダイバーシティ(多様性)について。
人間の三大欲求は、食欲・性欲・睡眠欲とされておりますが、性欲に関しては奥が深く、さらに細分化ができるってとこを掘り下げていました。
だから『正欲』がタイトルなんです。語感が恥ずかしいけど、作者は気に留めていないんでしょう。そのへんに、センスの違いを感じます。
ちょっと前までは、常識でガチガチに固められていた結婚観も、年の差婚を皮切りに同性婚へと広がっていき、当たり前の概念が変わりつつあります。それが「多様性」。だけど、作者が考えている多様性は、もっといろいろあるよと言わんばかり、物語の中に放り込んできました。
水を見て興奮を覚えるなんぞは、想像の域を超えておりますが、少数派の息苦しさもまた、世の中なのであります。
たとえマイノリティであっても胸を張れるところ、作者の才能と言うか、若い世代の瑞々しいばかりの感性なんだなぁと思いました。
三日前に『ゴジラ』を観たんですけれど、それとは真逆の心理劇でありました。
これは、説明と描写の違い。説明の言葉は分かりやすいんだけど、リアリティが薄れます。『ゴジラ』の脚本がコントっぽいと言ったのは、そういうところです。
『正欲』はセリフへのこだわりが強いので、言葉が少なめであるため、その分役者の技量が存分に発揮されております。
稲垣吾郎のイライラした表情が絶妙だったし、新垣結衣の闇が深い役どころは彼女の新境地を開いたのではないでしょうか。二人ともほとんど笑ってませんからね。それぞれの得意技を封印しての熱演は、凄みさえありました。何でもかんでも言葉にしてしまう作品ではないので、不完全燃焼ととらえた人もいるでしょうが、心のうちにあるぼんやりした部分こそが人間そのものであると、ちょっぴり哲学的に捉えたりしています。
見終わって、ハ〜っとため息が出てきたのは私だけじゃないと思いますよ。