昨年に続き、私が今年読んだ本のベスト10を発表します。あくまで、私が今年読んだものからってことで、お許しください。
まずは、小説部門から。
1位 滅茶苦茶(染井為人)
2位 覇王の轍(相場英雄)
3位 正欲(朝井リョウ)
4位 沈黙法廷(佐々木譲)
5位 復讐の協奏曲(中山七里)
7位 望み(雫井脩介)
8位 カエルの楽園(百田尚樹)
9位 誘拐(五十嵐貴久)
10位 ハピネス(桐野夏生)
作者が重複した作品は、その代表作一つに絞りました。
そんな中でのイチオシは、染井為人の『滅茶苦茶』です。コロナ禍で人生を狂わされた3人の人間模様を描いた作品ですが、まぁ登場人物がまるで存在するかのようなビビッドな描き方は天才的で、どんどん引き込まれていく筆致が圧巻です。染井作品は、この他にも『鎮魂』『震える天秤』が一級品でした。外れナシ。どれでも当たりなので、是非一度読んでください。
2位の『覇王の轍』は、鉄道行政にまつわる不正を描いていて、実在する企業を思わせる手法は相場作品の真骨頂です。小説における勧善懲悪の形は、基本であり読後の爽快感に繋がるのであります。
3位は、朝井リョウの『正欲』。作者は直木賞史上初の平成生まれで、若手の文体や感性が馴染みにくいところがあるんですが、この人は違う。ダイバーシティの現実を正面から見事に表現しております。現代版の夏目漱石『こころ』を思わせます。
4位の『沈黙法廷』。実際に行われる裁判を被告や弁護人、あるいは検察や判事の視点だけでなく、傍聴人から見た情景を繊細さをもって描いているのが新しい。
5位の『復讐の協奏曲』は中山七里のシリーズものです。この作者は語彙が豊富なので、そういう面でも勉強になりました。
6位の『シャイロックの子どもたち』は池井戸潤の作品です。前職が銀行員なので、『半沢直樹』をはじめとする金融機関を舞台にした話はお手のものです。映画も観ましたが、これは小説の勝ちでした。
7位の『望み』は、たとえ殺人犯であっても生きていて欲しいと願う母親と、息子が人を殺めるなど考えられず、死んでいるとしてもやむを得ないと考える父親との葛藤を描いた作品です。なるほど、どっちもありだなぁと唸ってしまいました。
8位の『カエルの楽園』は、人間的に嫌いな百田尚樹の寓話です。この人のメディアを介しての表現は、どうしても賛同できないんだけれど、それが小説で表現されると、ぐいぐい惹き込まれてしまいます。天は二物を与えないが、一物(イチブツ)が傑出していることがあるのは認めざるを得ません。
9位は、五十嵐貴久の『誘拐』。何の捻りもないタイトルですが、厳重な警備下にある総理大臣の孫娘をさらうのを無理なくやって遂げる鮮やかな手口が巧妙に描かれています。
10位の『ハピネス』は桐野夏生の作品から。タワーマンションをヒエラルキーの象徴と捉えるところ、上手いなぁと思わず膝を打ちました。学歴なんかもそうだけど、人間の価値を偏差値で見ようとする人は、上流階級ほど多い。大金持ちで心がキレイな人っているんだろうかと思ってしまいます。何故なら、上にいる人ほど、そういうことを気にしているからです。う〜ん、読み終わってイヤな気持ちにさせるのは桐野夏生ならではなのであります(褒めてます)。
一位に挙げた染井為人は、人物描写に長けており、ホント、素晴らしい作家です。是非是非、読んでみてください!