都会のネズミと田舎のネズミ

読書ネタ、スポーツネタ、お笑いネタ、時事ネタを拾いながら、笑いの方向へと導きます。3打数1安打を目指しています。ハズレよりもアタリを読んでください。

流浪の月

10年ぐらい前に話題となった坂元裕二脚本のドラマ『Woman』をTVerで観ました。

これが、めちゃくちゃ涙腺を刺激するストーリーで、満島ひかりと田中裕子の熱演に圧倒されました。

幼少のころ、母親に捨てられた主人公が結婚して二児を授かったものの、夫を不慮の事故で亡くした上、自身は再生不良性貧血に罹ってしまい、生活困窮のあまり、音信不通であった母親を頼るという不幸のジェットコースター。そして、その中に訪れる小さな幸せや周囲の人々の善意が沁みて、感情を揺さぶられます。役者の演技もさることながら、脚本がしっかりしていると、作りものでありながら、その人たちが本当にいるような気持ちにさせられるものだと改めて思わされました。

 

最近注目されている凪良ゆうという作家は、彼女自身が母子家庭で育ち、小学6年の時に母親が帰ってこなくなったことによって、親戚の家を転々としたもののそれに馴染むことができず、児童養護施設で生活するようになったといいます。いるんですね、子どもを捨てて突然いなくなってしまうお母さん。小説の背景として、そんなシチュエーションが時々描かれておりますが、本当にあるらしい。本人が新聞社の取材で語ったところによると、自分の身に襲いかかる不幸が度を越すと怖さも苦しみもつらさも感じなくなってしまうんだそうです。感覚が麻痺するのだと。

施設では、心に傷を負い、問題を抱え、誰にも心を開かない子が圧倒的に多く、大人の前ではニコニコしていても目は笑っていなくて陰で暴力を振るうのが日常茶飯事で、緊張と警戒を強いられ、気が抜けない毎日だったと言います。だから、普通の家庭の方がよく分からない。

それでなんでしょう。小説では、同性愛や血のつながらない親子、わかり合えない家族など生きづらさを抱える人々の人生を描いてきました。

彼女が小説の世界で頭角を表したのは、ボーイズラブの作家としてです。私が巡り会うのに時間がかかったのは、そのせいでありましょう。

 

『流浪の月』(東京創元社)は、本屋大賞受賞作品です。

主人公は、父を病で亡くした後、母に見捨てられ、母方の伯母の家に引き取られます。その家では伯母の息子から虐待を受けるため、学校が終わるといつも公園で過ごしていました。その公園には、小学生からロリコンと呼ばれる19歳の大学生がいました。この二人が一緒に暮らすようになるのですが、娘は行方不明の女児として実名報道されており、ついには大学生が誘拐犯として逮捕されてしまう。そして、事故から15年過ぎ、24歳になったある日、主人公は偶然その元大学生と再会する…てな感じ。

外からは見えない真実や、恋愛でも友情でもない言い表しにくい2人の関係性が、なんとも繊細で微妙です。このモヤモヤした心理状態をどう解釈するかは、好みの分かれるところですが、私は面白かったです。いろんな人がいろんな事情を抱えてるって話。それが人生なのであります。

 

【テーマ】タイトル・時代性・学習性 16点

【文章技巧】読みやすさ・バランス 18点

【人物描写】キャラクター・心理描写・思い入れ 20点

【構成】つかみ・意外性・スピード感 18点

【読後感】共感性・爽快感・リアリティ・オススメ度 18点

【合計】90点