数年前、横浜・中華街に麻婆豆腐専門店である『R』というお店がありました。
ここの中国から招いた調理人が天才的な腕前で、それはもうあり得ないくらい美味しい麻婆を食べさせてくれたのです。
もちろん、中華街ですから、我こそが一番と麻婆の看板を掲げた店がたくさんありますが、そんなもん比じゃありません。レベルが違う。
一般に、そういうところは辛さにこだわりを持って勝負しています。
辛さの中に、甘さとコクを表現する腕比べみたいな。
ところが、『R』の見せ場は、“麻”にありました。
この“麻”という字は「痺れる」という意味があります。
だから、本物の麻婆は、食べた後にピリピリと舌が痺れたような感覚が残るのです。
で、その後からジワッと辛さが襲う。
そういうのが本物だと思っています。
痺れなきゃ、麻婆じゃない。
痺れの素は“花山椒”にあります。
これを食べる直前に親の敵みたいに振り掛けることで、痺れる麻婆が実現するのです。
受け付けない人も結構いるでしょうけど。
このお店、司会で有名なM氏をはじめ、炎の調理人S氏など、芸能人も多くやって来ていましたが、わずか数年で撤退してしまいました。
なぜか?
それは、オーナーが店を私物化して、ちょっとしたことで貸切にしてしまい、常連客を大切にしなかったことと、現場の従業員との意思疎通がうまくいっていなかったためと睨んでいます。
これは、勉強になりましたねぇ。
つまり、飲食店というものは、完璧に近いほどに美味しい料理をリーズナブルな価格で丁寧にもてなしたとしても、うまくいくわけではないってことです。
そうか、そうか。
四連休三日目の今日は、まかない用の麻婆豆腐を作ってみました。
世の中に、麻婆以上にご飯に合うものがありましょうかって出来栄えです。
もちろん、挽きたての花山椒をたっぷりかけて。
うーん、中華料理店にしようかしらん??