筒井康隆が断筆宣言を行ったのは、てんかん持ちの人に対して作品の中での差別表現が過ぎるとの批判を受けてのものでした。
このとき、彼が怒っていたのは、ことなかれで言い換えや削除を行おうとする出版業界の現状や安易な批判をする、あるいは真摯な擁護を見せずにただ騒ぎに便乗するだけの同業者などに対してです。
なるほど、弱者に対しての配慮に欠ける表現には気をつけなければいけないけれど、行き過ぎた規制が窮屈な社会を作り出してしまうのは、昨今のテレビ業界の実情であるように思います。どちらも正しいわけで、これについて白黒ハッキリさせるのは難しい。世の中には、◯か✖️かに分けられない△がたくさんあって、曖昧な部分が多いのが現実なんです。
例えば、精神に支障をきたしている人に対して、社会復帰を促すための応援をするのか、決して表に出ないように蓋をしてしまうのかについて、正解が分かりません。絶対に間違いが起きないようにするのだったら、後者なんだけど。う〜ん、やっぱり△じゃないのかなぁ。
『連続殺人鬼カエル男』(中山七里著・宝島社文庫)は、サイコホラーの殺人事件で、心神喪失者の責任能力について問いかけた問題作です。性的な描写が限度を超えているので、ウッとなりますが、幼児期の悲惨な体験によって、人生が歪められてしまうことが多いのも事実であろうし、そこの不快感に目を瞑れば、むしろ見事な伏線回収でありました。
中山七里は「どんでん返しの帝王」と呼ばれておりますが、この作品はその面目躍如たるもので、結末へ向けてのスピード感といい、たいしたものだと感心しています。オススメです。
【テーマ】タイトル・時代性・学習性 18点
【文章技巧】読みやすさ・バランス 17点
【人物描写】キャラクター・心理描写・思い入れ 18点
【構成】つかみ・意外性・スピード感 20点
【読後感】共感性・爽快感・リアリティ・オススメ度 19点
【合計】92点