ヨーロッパの国々では「死刑は野蛮」というのが共通認識です。
現在では、世界の140ヵ国で廃止されており、EUの加盟には死刑制度の廃止が条件となっているほどです。
我が国でもときどき思い出したようにこの問題を論議しようとする流れが来るのですが、政権が変わるたびにそれまで議論された内容がチャラにされ、先送りしてきたというのが実際のところです。
国民への意識調査では、おおよそ八割の人が死刑制度の存続を望んでいるらしい。
それは、被害者家族の感情を尊重していることによるもので、仇討ちが認められていない以上、死をもって償うべきだとの考えによるものです。
獄中で悔い改めるなんてことは誰も信じていません。そんな人間を生かしておくのは、税金の無駄遣いだということです。
犯人をその場で射殺するなんてことがタブーである以上、極悪人には絞首刑が相応しいと思うのは、むしろ当然だと言えるでしょう。
一方で、冤罪の可能性はどうなんだという立場もあります。
死をもって償わせるのはやり過ぎだと考えるのも、違うんじゃないかと言う人もいる。
実際に、死刑判決が出たとしても、自分の在任中にハンコを押さない法務大臣は意外なほど多く、人が人を裁くのは難しいとつくづく思います。
ちなみに去年は一件も死刑執行がされておらず、2023年末で107人が待機中とのことでした。
『ネメシスの使者』(中山七里著・文春文庫)は、当然に死刑判決が出て然るべきところを温情判決で減刑された犯人の家族に対し、復讐目的の殺人が繰り返される事件をめぐる物語です。一つひとつの事件を警察・検察・裁判官・被害者家族・マスコミ・SNS・一般市民それぞれの立場から考察し、それぞれが考えを深めていく手法が切れ味よく、迫ってきます。
温情判決だと言われた判事は、最後にこんな言葉を残しています。
「理不尽に他人の命を奪った者に同等の死を与えるなど、大局的に見れば慈悲のようなものです。長く恨みに思わせず、苦しませもせず。世の中には死よりも、もっと苛烈で残酷な刑罰がある。極刑というのは死刑ではない…(後略)」
なるほど、そういう考え方もあるなぁ、です。
【テーマ】タイトル・時代性・学習性 18点
【文章技巧】読みやすさ・バランス 20点
【人物描写】キャラクター・心理描写・思い入れ 19点
【構成】つかみ・意外性・スピード感 17点
【読後感】共感性・爽快感・リアリティ・オススメ度 17点
【合計】91点